〝大人の事情〞に忖度したせいか、日本の「防衛白書」では触れられていないが、軍事的には以下の事実が見逃せない。

同書「はじめに――なぜ台湾なのか」で、小原研究員が、こう指摘している。

中国の戦略原潜は、南シナ海に突き出した海南島の楡林基地に配備されており、米海軍は中国の戦略原潜が出港する時から追尾したいと考えるため、これが南シナ海における米中軍事プレゼンス競争の要因の一つになっている。もし、台湾に中国海軍の基地が建設されれば、中国の戦略原潜は直接太平洋に入ることができる。

もし、そうなると、海上自衛隊や米海軍が、中国の戦略原潜を補足することは、きわめて困難となってしまう。米国としては、中国の戦略原潜から発射される核ミサイル攻撃という死活的なリスクにさらされる。

しかも現在、中国海軍(人民解放軍海軍・PLAN)は、射程約7200kmのSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)「JL-2」を搭載する「ジン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)」(戦略原潜)を運用している。

加えて、最大射程1万2000kmに達する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「JL-3」(巨浪3)が「ジン級SSBNにすでに搭載されているとの指摘もある」(防衛白書)。

今年10月19日、米国防総省が公表した、中国の軍事・安全保障に関する年次報告書では、今年5月時点で中国が保有する運用可能な核弾頭数を500発超と推計し、2030年には核弾頭数が1000発を超す可能性が高いと指摘した。

この報告書は、中国の「晋」級・戦略原艦に搭載された上記新型SLBM「JL-3」が、中国沿岸の海域から米本土を射程に収めているとも分析した。

そうだとすれば、すでに米本土を射程下に収めていることになる。米国として、言うまでもなく、許容できないリスクである。

ウクライナ戦争と中東情勢の行く末は、東アジアの平和と安定に深刻な影響を与える。地球の裏側の出来事と傍観することは、もう許されない。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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