本題に戻って、メディアの見出しを見ますと、各社まちまちで「長期金利の1%超え容認」、「長期金利上限『1%めど』」、「金利上昇の新局面」、「政策修正への警戒和らぐ」、「マイナス金利解除(短期金利の修正)へ関門」と多様です。

植田総裁が記者会見で、市場に一方的な解釈を取らせないような言い方に終始したのが原因です。「長期金利の上限のめどを1.0%とする」と言いながら「1%超え」を容認するようなニュアンスを伝えました。両様の解釈をさせたいのです。

同時に「上昇圧力がかかっても1%を大きく上回るとは見ていない」と、けん制しています。市場機能の回復が今後の課題なのだからこうした発言は控えてほしい。7月に事実上の上限を1.0%に引き上げた時も「0.5%-1.0%の範囲」を想定していることを示しつつ、「上昇しても0.7%程度」と余計な発言を付け加え、恥をかくはめになりました。

主要紙の社説をみますと、朝日新聞は「出口に備える議論を急げ」の見出しで「物価目標の2%を3年連続で超えた。出口に向かう場合の手順、影響について議論を深める必要がある」と主張します。財政正常化と一体にならないと、金融の出口はこないことへの言及が欲しかった。

日経は「緩和再修正を機に出口への備えを万全に」の見出しで、「総裁は出口に直結する措置ではないといいつつ、『実現の確度が少し高まってきていることは事実』と強調した」ことに注目しています。そこがポイントとみたのは正解でしょう。

読売新聞は「円安が進んでいる。長期金利を事実上1%に引き上げた(7月措置)のに続き、さらに政策を見直したのは妥当である」と。ここまではいいにしても、肝心の出口論には全く触れていません。そこ言及しないと、社説として及第しない。

読売はさらに「長期金利が上がれば、住宅ローン金利、企業の借入金利が上昇する。悪影響にも丹念に目配りしてほしい」と。政策金利の引き上げというのは、そうした効果を必然的に伴うものであり、「悪影響も」という解釈では金融政策への理解が足りません。

日銀は今回、金融政策の土台となる物価見通しを修正し、23年度は2.8%(7月時点では2.5%)に上方修正しました。24年度も2.8%で、3年連続で3%前後の上昇となり、黒田時代に表明した「2%目標」は達成していると考えられます。

問題はガソリン代、電気.ガス料金への政府補助(消費者の負担軽減=物価引下げ策)をどう計算しているかです。23年度は政府補助がなければ、2.8%でなく、3-4%の上昇です。24年度以降、補助を減らしていけば、物価の上昇要因になり、それを含めて24年度は2.8%ということなのかが不明です。植田氏は何も語っていません。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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