AIの強みは何と言ってもそのビッグデータの処理能力だ。人間の能力では処理できない数万、数百万の情報を迅速に処理して、そこから必要な情報を探しだすことが出来る。世界的ベストセラー「サピエンス全史」の著者で、“現代の知の巨人”と呼ばれるイスラエルの歴史家、ユバル・ノア・ハラリ氏((Yuval Noah Harari)は、「近い将来、ビッグデータは神のような存在となるだろう」と予想していたが、聯合ニュースの「AI発」のニュースを読んでより一層その時が近いことを感じた。

このAI情報が出る前までは、北朝鮮の独裁者金正恩総書記の体重は「130キロ前後」と推定されていた。それをAIは「145キロ」に増えていることを明らかにしたのだ。AIには過去から現在までの北関連情報は全てインプットされているだろうし、顔面認識や心理学などの最新の学術成果も入っているだろう。それらの情報のジャングルから必要な情報を取り出し、「金正恩氏の体重は145キロ」と割り出したのだ。

当方は1990年代、欧州の北朝鮮問題をウオッチしていた時、AI発の記事などはなかった。独自の調査報道の他、北問題専門家や脱北者からの情報がソースだった。ソウル発のAI情報を読んで、「近い将来、北専門家、ウオッチャーといった呼称はなくなるだろう」という寂しさすら感じた。もちろん、北情報だけではない。政治、文化、社会など各分野でも程度の差こそあれ、AIが侵入してくるのはもはや時間の問題だろう。朝起きて読む記事の多くは、「AIによれば……」で溢れるだろう。

参考までに、エジプトのパロ時代、王パロは不思議な夢を見た。胸騒ぎがした王はエジプト中の知者や魔術師に夢の謎解きを聞いたが、夢の意味を解き明かす者は誰もいなかった。そのときヨセフが夢の謎を解明し、飢饉を乗り越えることが出来た。旧約聖書に記述されている話だ。神の霊を持つ聡く賢いヨセフにパロ王は感動したため、ヨセフをエジプト全国の司(現代の総理大臣)にし、全ての権限を与えた。その数千年後、AIが登場し、ビッグデータの解析で能力を発揮し、大統領、神のような存在にまで上り詰める可能性が考えられるのだ。イスラエル歴史学者の預言は決して天才の妄想として一蹴できない。

ところで、韓国国情院はAIに既に新しい課題を提示しているはずだ。金正恩氏の体重ではない。「金正恩総書記はなぜ10歳前後の娘(金ジュエ)を引率しながら弾頭ミサイル発射を視察したり、軍パレートに連れ行くのか」だ。AIは多分、その問いに答えているはずだが、国情院はこれまで公開していない。

弾道ミサイルがまさに発射されるという時、金正恩氏と娘は手を繋いでそれを眺めている。その書割は父親が娘と一緒に見るような風景ではない。それではなぜ金正恩氏はその時、娘を傍に連れてくる必要があったのか。北朝鮮ウオッチャーが現在最も関心があるテーマにAIはどのように答えたのだろうか。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。