愛する人に毒を盛るなんて、人間の世界ではあり得ないでしょう。

しかしタコの世界ではそれがあり得るようです。

豪クイーンズランド大学(UQ)の最新研究で、猛毒を持つ「ヒョウモンダコ」のオスは、交尾の直前にメスに噛み付いて毒を注入し、麻痺させるという驚きの行動を取ることがわかりました。

いったい何のためにメスに毒を盛るのでしょうか?

研究の詳細は2025年3月10日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。

目次

  • ヒョウモンダコが「恋人に毒を盛る」行動を確認
  • 交尾相手に毒を盛る理由とは?

ヒョウモンダコが「恋人に毒を盛る」行動を確認

ヒョウモンダコ(学名:Hapalochlaena fasciata)は、猛毒を持つ小型のタコとして知られています。

その毒は「テトロドトキシン(TTX)」と呼ばれ、フグの毒と同じく神経を麻痺させる強力な作用を持っており、人間の死亡例も確認されているほどです。

通常、この毒は獲物を捕らえたり捕食者から身を守るために使われます。

しかし興味深いことに、今回の研究ではヒョウモンダコのオスが同種の、それも交尾相手のメスに毒を盛ることが判明したのです。

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ヒョウモンダコ/ Credit: canva

クイーンズランド大学の研究チームは、研究室内でヒョウモンダコの交尾行動を詳細に観察しました。

その結果、オスが交尾の初期段階でメスの大動脈付近を噛み、そこからTTXを注入することが確認されたのです。

ヒョウモンダコのメスは毒への耐性があるため、他の生物のように死ぬことはありませんでしたが、それでも無害ではいられません。

毒を注入されたメスは麻痺して、次第に呼吸が遅くなり、やがてほぼ1時間にわたる窒息状態に陥りました。

そしてメスがまともに動けなくなったその隙に、オスは精莢(せいきょう:精子の入ったカプセル)をメスの生殖管へと送り込んでいたのです。