今さら言うまでもないが、北朝鮮は世界でも最も閉鎖的な国家の一つとして知られている。その実態は外部からうかがい知ることが難しく、内部の情報は限られたものしか出てこない。しかし、同国から脱出した人々の証言を通じて、その異質な社会の一端が明らかになってきている。
北朝鮮出身の脱北者、ティモシー・チョ氏は、現地での生活について衝撃的なエピソードを語っている。特に一般の人々がテレビを購入する際の政府の監視体制は、他国では考えられないほど厳格だという。
テレビ購入すら自由ではない北朝鮮の現実
北朝鮮では一般市民がテレビを購入する際、必ず政府の監視が入る。購入後、国の担当者が自宅を訪問し、すべてのチャンネルを削除。最終的に残るのは政府が許可した唯一のチャンネルのみである。
このチャンネルでは金一族を称える番組が24時間放送されている。歴代の指導者である金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)、そして現指導者の金正恩(キム・ジョンウン)を賛美するドキュメンタリー、歌、演説が流れ続ける。さらに、一般のポップミュージックですら、金一族を称える歌詞が含まれていなければ放送されないという徹底ぶりだ。
「崇拝」は国家の義務──神格化される指導者 北朝鮮における金一族のカリスマ性は、単なる政治的支配を超えたものになっている。指導者は「神」に等しい存在として国民に教え込まれており、子供の頃からこの思想を叩き込まれる。
例えば、北朝鮮の建国者である金日成は、亡くなった後も「永遠の指導者」とされ、国のトップとしての地位はそのまま。息子である金正日は、「奇跡的な誕生」をしたとされ、彼が生まれた際には巨大な星が輝き、ツルが空を舞ったという神話のような物語が学校で教えられている。
こうした「神話」は、学校教育や国営メディア、職場での講習などを通じて、徹底的に国民に浸透させられる。さらには、毎年の国の祝日には、国民が金一族の銅像や記念碑を訪れ、礼拝のような儀式を行うことが義務づけられている。これに参加しないと政府から「忠誠心が足りない」とみなされ、自分だけでなく家族全体が監視対象となる可能性もあるのだ。
