このカメラはとても高感度なので、1個ずつの光子がつくる微弱なパターンでもとらえることができます。

結果として、偏光が“ループ軌道を起こしやすい”状態だと、干渉パターンがこれまでの常識とは少し違う形になり、光が三本のスリットの近くを回り込むように進む経路が存在することをはっきり示すデータが得られました。

こうした観測結果は、一見すると「光が三つのスリットを同時に通っているうえに、さらにループを描いている」という不思議なイメージを与えます。

スリットAから出た光がスリットBへ回り込み、さらにまたスリットAへと“戻ってくる”ように見えるのは、量子力学や波動理論における「すべての経路が重ね合わさる」という性質と、スリット近傍の強い近接場が組み合わさることで起こると考えられます。

とはいえ、これは量子力学の基本法則であるボルン則を揺るがすわけではありません。

むしろ、スリットの周囲に存在する“近接場”の影響が従来よりもはっきり可視化されたことで、量子の世界を説明する枠組みが一層精密に確認されたといえるでしょう。

たとえば、ループ軌道の存在を数式上では取り入れていたとしても、その確率がごく小さかったために長らく見過ごされてきました。

しかし、表面プラズモンをうまく活用するというアプローチによって、その微小な寄与を増幅し、明確に観測できるようになったことが大きな前進です。

こうしたループ軌道の観測は、「単純な重ね合わせ」では理解しきれない光の振る舞いが、確かに量子力学のなかで説明できるという点を強調します。

言い換えれば、私たちが教科書などで学ぶ“波の重ね合わせ”だけではなく、もっと複雑な回り道が実際に存在し、それを検出する手段が整いつつあるということです。

五重スリットはさらにヤバい?広がる量子干渉の可能性

三重スリット実験で見えた「光のループ経路」
三重スリット実験で見えた「光のループ経路」 / 三重スリットで観測されたループ経路の寄与を示す定量的評価(サーキンパラメータ 𝜅 κ など)のグラフ。 横軸にはスリットの寸法、入射光の波長、偏光状態などのパラメータが示され、縦軸の値が“ループ軌道が干渉パターンにどれだけ影響を及ぼすか”を数値化した結果を示しています。もしループ軌道の寄与が全くなければこの値はゼロに近くなりますが、実験では特定の条件で 𝜅 κが有意に大きくなり、“通常の重ね合わせだけでは説明できない干渉成分”が増していることがわかります。高校の物理で学ぶ『波の重ね合わせ』を超える新たな干渉の可能性が、こうした測定によってはっきり示されたと言えるでしょう。/Credit:Omar S Magaña-Loaiza et al . Nature Communications (2016)