ロンドンのシーンはテレビカメラに撮影され、全世界に配信されたので、トランプ氏が見れば、「欧州は我々側ではない」との間違った印象を受けるかもしれない。すなわち、米国と欧州間の関係に取り返しのつかない亀裂を生み出すことにもなり、プーチン氏を喜ばすことになる。

ホワイトハウスの出来事について、欧州ではゼレンスキー氏支持の声が強い。オーストリア国営放送はキーウの路上で市民にインタビューしていた。それによると、ウクライナでも大多数の国民は「大統領はよくやってくれた」という声が支配的で、批判の声はほとんど聞かれなかったという。多分、それは事実だろう。

ここではゼレンスキー氏に対して、2、3の注文をつけたい。米国訪問では外交儀礼を厳守すべきだったということだ。例えば、ホワイトハウスからは「スーツを着用してください」という要請があったという。しかし、戦時中のウクライナから来た大統領は「戦争が終わるまでは私はスーツを着ない」と言って、いつもの黒の長袖シャツでホワイトハウス入りした。キーウからのゲストを迎えたトランプ氏はゼレンスキー氏に「今日は着飾っているな」と皮肉を言っている。会合中、米国ジャーナリストからゼレンスキー氏は「どうしてスーツを着用しないのか」と聞かれていた。

ゼレンスキー氏の説明は理解できる。数多くの兵士たちが戦闘で命がけの戦いをしている。そんな時にスーツを着ることが出来ない、という強い思いから、米国訪問でも同じスタイルを維持したわけだ。

仮定だが、ゼレンスキー氏がスーツ姿で登場し、会合の最初に大統領と米国民に向かって、これまでの支援に感謝すると述べていたならば、あのような外交決裂は生じなかったのではないか。

たかが、外交儀礼、されど、外交儀礼だ。特に、トランプ氏は外交儀礼を重視する。ゼレンスキー氏はトランプ氏がどのような性格の持ち主かもう少し研究しておけば、良かったのではないか。トランプ氏から「あなたは第3次世界大戦を誘発させる危険性がある」といった警告を受けずに済んだのではないか。