今回の研究では、宇宙飛行士にISS内部の異なる803箇所の表面を綿棒で拭き取ってもらい、それを地球に持ち帰りました。

その後、研究チームは各サンプルにおける微生物の多様性や化学物質を解析。

またISS内部の3Dマップを作成し、どのモジュールにどの微生物や化学物質が存在するのかを詳細に分析しました。

これは過去に行われたISSの微生物調査の約100倍の規模になるといいます。

その結果、ISSの微生物環境には次のような特徴があることが明らかになりました。

1:ISS内部は微生物の多様性が極端に低い

地球の閉鎖された建築環境(病院や都市部の家屋)よりもさらに微生物の種類が限られていた

2:ISSの微生物はほとんどが人間由来

ISSで見つかった微生物は、宇宙飛行士の皮膚や消化管由来の細菌が大部分を占めていた

3:モジュールごとに異なる微生物のパターン

食事エリアには食品関連の微生物が多く、トイレ周辺には尿や糞便由来の微生物が多かった

4:消毒剤の使用が微生物の多様性を減少させている

ISSでは強力な消毒剤の化学物質が多く検出されており、その影響で環境中の微生物が大幅に減少していると推定された

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上:食事スペースでは食品関連の微生物が、トイレスペースでは排泄物に関連する微生物が多い。下:居住環境ごとの微生物の多様性レベル(緑)と化学物質のレベル(水色)/ Credit: Rodolfo A. Salido et al., Cell (2025)

そこで研究者たちは、ISSの微生物環境を「適度に汚す」ことが宇宙飛行士の健康にとって有益かもしれないと考えています。

これは「地球上で園芸や農作業が免疫を強化するのと同じ原理」だといいます。

実際、土壌には健康に良い微生物が豊富に含まれており、これらの微生物に触れることで、免疫系が適切に活性化されることが分かっています。

したがって、ISSでも「良い微生物」を導入することで、宇宙飛行士の健康を改善できる可能性があるのです。