■日本のロストテクノロジーとして見た「人間無骨」

さて、人間無骨に話を戻しましょう。結論から言ってしまうと、人間無骨のような十文字槍、鎌状の突起が槍穂に付いている「鎌槍」などは、現代において製法が失われたロストテクノロジーとなっています。
製法が失われた理由は至極単純で、合戦の必需品であった槍は実用品であり、平和な世の中になれば需要がなくなるものです。徳川家康が江戸幕府を開き、太平の世が長く続いた江戸時代に入ると、次第に槍の需要は減少し、やがては必要最低限の技術のみが伝えられるようになりました。
槍術は剣術のように武芸として伝えられていましたが、美術品としての価値もある日本刀とは違い、ただの槍はともかく、凝った形をした十文字槍など太平の世において需要はなく、作られることさえほとんどなかったのです。結果、十文字槍の制作技術は失われてしまいました。
今ではひとくくりに考えられがちですが、刀の製法と槍の製法は似て非なるもので、槍は専門の鍛冶師によって作られていました。
その一方で、刀匠が槍を作ることはほとんどありませんでした。名高い刀匠が手がけている先述した天下三名槍や、人間無骨のように刀匠である「和泉兼定」の銘がある槍は、数少ない異例の存在なのです。
時代の流れによって失われてしまった「十文字槍」の制法ですが、近代に入ってからはその製法や、十文字槍を再現する試みは幾度も行われています。現在では主に岡山県の刀匠「赤松伸咲」を中心としたグループが、十文字槍の製法研究と製作を行っています。今後の技術の発展と、ロストテクノロジーの復活に期待しましょう。
文=たけしな竜美
提供元・TOCANA
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