■官位を賜った槍

 ところで「日本の槍」と言われた際、真っ先に名の挙がるのは「天下三名槍」と呼ばれる3本の槍でしょう。

 第二次世界大戦の戦火によって失われたため、何度も復元が試みられている「御手杵(おてぎね)」。姿の美しさ、完成度の高さから、腕に覚えのある刀匠が生涯に一度は写しに挑戦するという「日本号(にほんごう、ひのもとごう)」。戦国時代の武将本多忠勝(ほんだ・ただかつ)の愛槍で、穂先に当たったトンボが真っ二つに切れたという逸話の残る「蜻蛉切(とんぼきり)」。これら3本が天下三名槍の内訳です。

 ちなみに、これらの中でも特に日本号は、皇室所有物となるために「正三位」の官位を賜っています。これは上から3番目、江戸時代には徳川将軍家でも一部の者のみ、現在では政府の高官や多大な功労ある人物が死後に叙せられる、というもので、物品に与えられる官位としてはありえない破格のものです。

 実は人間以外が官位を授かるのは珍しいことではなく、かつての朝廷には官位のないものは人間、動物、物品を問わず入ることができない、という習わしでした。よって天皇が鑑賞する動物などに官位が与えられたりもしていたのですが、この場合は中級貴族層に与えられる「従五位」にとどまります。異例の正三位を与えられた日本号が、どれほどの逸品であるか示すエピソードといえるでしょう。