あだ名の真偽はさておき、重要なのは「効く」かどうかだ。

この効果は、ペルソナ心理学とアリストテレスの説得術「エトス・パソス・ロゴス」の三位一体によるものだ。トランプは「選挙なき独裁者」で相手の品性・信頼性(エトス)を下げ、もう一つのあだ名「そこそこのコメディアン」で感情(パソス)を揺さぶり、「支持率4%」で論理(ロゴス)を補強する。

この“三位一体の悪口”が世界を駆け巡った。

説得術の神髄だ。アリストテレスが説くように、「説得術とは言論を生み出す能力に他ならない」。

その内容が低俗と批判されようが、ウクライナ戦争をめぐる議論を活性化させたのは確かだ。

しかし、トランプの真の狙いは単なる議論や小手先の反論ではない。世界の注目を浴びさせ、相手に行動変容を促すことだ。その一貫として、トランプはゼレンスキーに対し、次なる難問を設定する。

「アメリカはEUよりウクライナに負担してる」「見返りに、鉱物資源の取引を求める」と物議を醸す発言で、難題を投げかける。

ここで鍵となるのが「ソクラテス式問答法」だ。「トランプは問題解決にコレを用いる」とバノン元首席戦略官が評する通り、相手に矛盾を突きつけ、根本を見直させ、決断を迫る手法である。

すでにトランプはメディアを通じ、ゼレンスキーに鋭い問いを投げかけている。

「アメリカの経済・軍事支援なくして、戦争を続けられるか?」 「そもそも支援なしでは、すぐに降伏していたのではないか?」 「これからも戦争を続けるなら、アメリカの税金がどれだけ必要だ? その見返りを国民に示せるか?」

指導者としての存在の本質が問われているのはゼレンスキーだ。トランプの要求とウクライナの未来を天秤にかけ、決断できるか。停戦、戦後を見据えた国造りのビジョンを、アメリカや世界に示せるか。

「独裁者でない」成熟した指導者としての試金石である。その答えが2月28日の首脳会談で明らかになる。