「独裁者」という言葉は単なる誹謗中傷ではなく、トランプが見抜いたゼレンスキーのペルソナの一面を表す“あだ名”なのだ。
ゼレンスキーに限らず、トランプにあだ名をつけられた指導者はすぐさま反応する。悪役トランプより高い道徳性を示さなければ、自身の正統性が揺らぐからだ。
実際、ゼレンスキーは「トランプ氏は偽情報の空間に生きている」と反撃。両者の応酬は世界の注目を集め、関心は戦争そのものから言論バトルへと移った。
これこそトランプの描く世界線、戦争なき「言論による世界支配」である。
その核となるのが熟練の説得術だ。トランプは「説得術を学び、磨け。人生のあらゆる場面で役立つ」と語り、自ら訓練を重ねてきた。
トランプ説得術の基本は「フレーミング」と「ダブルバインド」の組み合わせだ。「独裁者」というレッテルで相手を特定の枠にはめ、心理的に追い詰めるのがフレーミング。ゼレンスキーが即座に反応したのも、この枠に縛られた証拠だ。
そこに「ダブルバインド」(心理的な二重拘束)が加わる。反論すればするほどトランプのフレーム内で議論せざるを得ず、「独裁者でないこと」を証明し続ける羽目になる。反論しなければ、独裁者のイメージが固定化され、正統性を失う(二重目の拘束)。どちらに転んでもゼレンスキーはトランプの術中に落ちる。
トランプ発言直後から、ゼレンスキーはEU指導者と次々とアポをとり、公式面談を通じて、正統性をアピール。G7首脳会議では「自由世界のリーダーか」とトランプを逆口撃した。
その矢先、公開討論会でジャーナリストが切り込んだ。「トランプ氏があなたを独裁者と呼んだとき、気分を害しましたか?」ゼレンスキーは「いや、真の独裁者だけがそんな言葉に傷つく」と軽くかわしたが、会場はあまり納得していない様子だった。
その数日後、「選挙なき独裁者」のレッテルを払拭するため、国会で大統領任期延長を決議。トランプの「独裁者」という言葉が効いている証拠だ。