今月26日にECサイト「Amazon.co.jp(アマゾン)」がAmazonプライム会員向けに送付した「Prime Videoのアップデートに関して」と題するメールが議論を呼んでいる。「皆様のPrime Videoの視聴体験が変わることをお知らせいたします」という文言で始まるその文面には、「4月8日より、プライム会員特典対象の映画やTV番組に制限付きで広告が表示されるようになります」と書かれており、さらに読み進めると「広告表示なしのオプションにも月額¥390(税込)で申し込めるようになります」との記述がみられる。つまり、従来通り「広告なし」で視聴するには年額4680円を支払わなければならず、現行のアマゾンプライム会員料金である年額5900円が8割アップの1万580円になることから、SNS上では「実質値上げ改悪」「不便になるんだからダウングレード」「広告ってまさか映画の途中に入らないよね」といった声が続出。その一方で、アマゾンプライムビデオの豊富なコンテンツ、さらにはアマゾンプライム会員の各種特典を踏まえれば今までのほうが低価格すぎたという指摘や、海外のアマゾンプライム会員料金に比べれば格段に安いといった指摘も出ている。今回のサービス改定をどう捉えるべきか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
アマゾンプライム会員が利用できるサービスは多岐にわたる。ECで購入した商品の配送料が無料となり(一部を除く)、アマゾンプライムビデオの特典対象動画や限定オリジナル作品が見放題。このほか、電子書籍のPrime Reading(プライムリーディング)、Amazon Music(アマゾンミュージック)なども一部を除き追加料金なしで楽しむことができる。
ちなみに国内の動画配信サービスとしてはNetflixとU-NEXTがメジャーな存在であり、料金は以下のようになっているが、前述のとおりアマゾンプライムのサービスには動画配信以外の各種サービスも含まれているため、単純比較はできない。
・Netflix
広告つきのスタンダードプラン:月額890円
広告なしのスタンダードプラン:月額1590円
・U-NEXT
月額2189円(雑誌読み放題サービスの利用、1200ポイント含む)
(参考)
・アマゾンプライム
月額換算で約492円(現行)
同約882円(4月8日以降、広告なしの場合)
※月額契約の場合はそれぞれ600円、990円
純粋値上げとならない点は良心的
今回のアマゾンの動きについて、デジタルマーケティング会社プロデューサーはいう。
「実質的な値上げといえますが、今回の通知メールの文面では『値上げ』『価格改定』という表現が使われておらず、そのような印象を会員に与えることを避けたいという意図がうかがえます。また、『Amazonプライム会員の料金にも変更はありません』『広告表示なしのオプションにも月額¥390(税込)で申し込めるようになります』という表現は日本の消費者からは反感を招くリスクがあり、あまり好ましくないとはいえるでしょう。一方、金額面を見ますと、動画や音楽、電子書籍の無料視聴・購読やEC利用時の無料配送がついて月額約492円という価格は、明らかに安すぎます。4月から広告なしプランを選択しても月額900円にも満たないわけですから、この価格設定の低さは凄まじいとすらいえます。また、今後は広告が入るとはいえ価格自体は据え置きになるわけなので、一方的な純粋値上げとならない点は良心的ともいえます」
当サイトは2024年12月29日付記事『楽天Gが存在→アマプラ料金が米国の4分の1?海外サブスク価格を大幅に抑制』で日本のアマゾンプライム会員料金が低く抑えられている背景について報じていたが、以下に再掲載する。
※以下、数字・時間表記・固有名詞・肩書等は掲載当時のまま
――以下、再掲載――
ECサイトではAmazon.co.jp(アマゾン)と、携帯電話事業では大手キャリア3社と、インターネット証券ではSBI証券などと比較され、メジャーな存在ゆえに何かとマイナスの評価を浴びることも多い楽天グループ(G)。だが、楽天市場が存在するおかげで日本のアマゾンプライム会員料金は海外と比較して低く抑えられていたり、楽天モバイルが存在するおかげで他のキャリアでも値下げ競争が起きて携帯料金が低く抑えられたりと、楽天のサービス利用者以外の多くの消費者が、楽天Gが存在することによる大きな恩恵を受けているという見解が一部で話題を呼んでいる。実際には、そのような現象はあるといえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
国内初の本格的な総合ECサイト「楽天市場」を運営する企業として、1997年に現会長兼社長の三木谷浩史氏が創業した楽天グループ。業容は急拡大を続け、売上高にあたる売上収益はグループ全体で2兆円を突破。手掛けるサービスはECから携帯電話、金融、旅行、フリマアプリまで幅広く計70超、グローバル展開拠点は30カ国・地域、グループサービス利用者数は約18億、グローバル取扱高は40兆円に上る巨大企業に成長した。2020年に本格参入した携帯電話事業の投資が重しとなり、23年12月期まで5年連続で最終赤字となっているが、昨年以降は「Rakuten最強プラン」「最強家族プログラム」「最強こどもプログラム」を相次いで投入し、さらには6月には「プラチナバンド」と呼ばれる700MHz帯の商用サービスも開始となり、速いスピードで契約回線数が増加。楽天Gは携帯電話事業が属するモバイルセグメントのEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)ベースでの黒字化が目前に迫っていると説明している。
その楽天Gの主要事業である「楽天市場」のライバルがアマゾンだ。もっとも、国内では2強といえる存在だが、グローバルに展開するアマゾンに対し、楽天市場の展開は主に国内に限られる。だが、楽天市場が存在することで日本のアマゾンプライム会員料金が低く抑えられているという見方もある。日本の同料金は年5900円だが、英国は95ポンド(約1万9000円)で日本の約3.2倍、ドイツは89.90ユーロ(約1万5000円)で約2.5倍、米国は139ドル(約2万2000円)で約3.7倍。日本には「ヨドバシ.com」など幅広い商品を扱うものや「ZOZOTOWN」「ユニクロ公式オンラインショップ」といった特定の商品ジャンルに強みを持つもの、スーパー各社のネットスーパーなど、リーズナブルな価格で短時間で配送してくれるECサイトが普及しているものの、規模の大きな楽天市場が存在することでアマゾンが安易に値上げしにくいという面はあるかもしれない。
「日本のECサイトが低価格かつ短期配達を実現できているのは、世界で類を見ないほど日本の物流・宅配業界が低価格で質の高いサービスを提供できているという要因も大きい。豊富な品揃えとユーザビリティーの高いサイト、在庫管理システムを構築できているのはECサイト事業者の努力の賜物だが、それと優秀な物流・宅配業界の相乗効果による恩恵を日本の消費者は受けている」(デジタルマーケティング会社プロデューサー)
また、2020年に楽天モバイルを通じて本格参入した携帯電話事業では、当時は大手キャリアの約半額の水準となる月額2980円(税抜)で大容量プランを提供。これに大手3社も追随して同水準の価格のプランを投入。今年10月以降は楽天モバイルのデータ使い放題プランを意識するかたちで、大手3社はお得感をアピールする30GBプランを投入。楽天モバイルの存在が日本の携帯料金を抑制する作用を及ぼしていることは否定できない。
このほか、ネット証券最大手のSBI証券は昨年9月、国内株式の取引手数料の無料化に踏み切り、楽天証券もすぐに追随したが、これも楽天証券という強力なライバルを意識した動きであったことがうかがえる。