「ウクライナ侵略」の世界的影響力

軍事大国ロシアによる「ウクライナ侵略」の衝撃は甚大であり、歴史的にロシアから地政学的な影響を受けてきたバルト3国やポーランド、フィンランド、スウェーデンなど西欧諸国の防衛体制の抜本的強化を促進した。

ロシアに対する安全保障上の危機感から、フィンランドは100年以上も続けてきた中立政策を改めNATOに加盟し、スウェーデンも200年以上続けてきた中立政策を改めNATOに加盟した。

ドイツも「ウクライナ侵略」以前は米国との「核共有」廃止論も存在したが「ウクライナ侵略」以後は一転して「核共有」廃止論は沈静化した。さらにドイツは防衛費GDP比2パーセントも決めた。これらの国のロシアに対する危機感は、地政学的にモスクワから遠く離れている日本人の危機感とは根本的に異なるのである。

ロシアによる「ウクライナ侵略」の背景には西側諸国のリーダーである米国の軍事力、経済力すなわち国力の相対的低下がある。今や米国は「世界の警察官」として、世界各地での紛争に直接介入する国力を欠くに至っている。このことは、中国による「台湾有事」にも直結するのであり、米国一国だけで「台湾有事」に軍事介入したり、これを抑止することが困難になりつつある。米英豪のオーカスはその対応策に他ならない。

「ウクライナ侵略」の日本への教訓

このように、米国の国力が相対的に低下し、反対に中国の軍事力、経済力が増強する事態が北東アジアにおいて顕著になりつつある。このような傾向は今後も継続し、北東アジアにおいては近い将来米中の軍事力が逆転する事態も想定される。核戦力においても中国は急速に拡大し、近い将来米国の優位性は崩れるであろう。

そのような事態になれば、「台湾有事」は現実化し、中国が領有権を主張する「尖閣有事」も避けられないと言えよう。とりわけ、米中の核戦力が対等になれば、中国の「核威嚇」により、「台湾有事」に対し米国の軍事介入が不可能になる事態も想定される。全面核戦争を恐れるあまり「ウクライナ侵略」に対し米国がロシアに極めて弱腰であることを見てもこのことは明らかと言えよう。

中国は毛沢東以来「力を信奉する国」である。そうだとすれば、日本は対中平和外交の推進と同時に対中抑止力の整備強化は不可欠である。

対中平和外交としては、自由民主党国防部会と中国共産党中央軍事委員会との定期的交流、意見交換、意思疎通、日本国自衛隊と中国人民解放軍との定期的観艦式、幹部間の定期的交流、意見交換、意思疎通などは有効であろう。

対中抑止力の整備強化としては、「専守防衛」を転換する反撃能力としての極超音速長射程弾道ミサイル兵器保有、F35長距離ステルス戦闘爆撃機保有、原子力潜水艦保有、空母保有、宇宙空間・電磁波・レーザー兵器保有、超高性能偵察衛星保有、無人長距離偵察攻撃機保有、各種ドローン兵器保有、イージス艦・パトリオットなどミサイル防衛システムの抜本的強化などが必須である。

加えて、核抑止力強化のための米国との「核共有」も必須である。「核共有」は必ずしも核兵器を日本国内の基地に設置する必要はなく、特定が極めて困難な原子力潜水艦発射型の「核共有」も極めて有効である。以上が「ウクライナ侵略」の日本への教訓である。

なお、日本共産党など左翼の一部には、反撃能力の保有など抑止力の整備強化に反対する勢力がある。その理由は、反撃能力の保有などは憲法9条の「平和国家」「専守防衛」の理念に違反し、日本を「戦争国家」にし極めて危険であるというものである。

しかし、「ウクライナ侵略」の衝撃により、ロシアの脅威から自国の安全を守るため、長年中立政策をとってきたフィンランドやスウエーデンさえもNATOに加盟し、ドイツも抜本的に抑止力を強化していることを考えれば、中国の軍拡や覇権主義、力による現状変更の試みに対し、共産党の言う「平和外交」だけで国を守ることは到底不可能であり、日本国および日本国民を守るための反撃能力保有などの抑止力の整備強化が必要不可欠であることは明らかである。憲法9条のために日本国および日本国民を犠牲にすることはできないのである。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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