この地域は、かつて火星最大級の海があったと考えられている場所で、研究チームはこの地下に過去の海の痕跡が残っている可能性を探りました。

祝融号の地中レーダーは地下最大80メートルまで探査でき、今回の調査では地下10〜35メートルの範囲に、海岸堆積物に似た斜めの地層を発見しました。

この海岸堆積物は約36億年前のヘスペリア紀(Hesperian)頃のものと推定されています。

この傾斜した地層の角度は6°〜20°で、これは地球の海岸線に見られる砂浜の堆積物と一致していました。

この発見により、火星のユートピア平原がかつて広大な海に接する「ビーチ」だった可能性が高まったのです。

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左:かつての「火星のビーチ」の復元図、右:現在の状態/ Credit: UC Berkeley – Ancient beaches testify to long-ago ocean on Mars(2025)

さらにレーダーはこれらの層に含まれる粒子のサイズを分析し、その大きさや構造が地球の海岸付近に見られる「砂」と一致することを明らかにしています。

研究者たちは、この堆積物が風による砂丘や火山活動によるものではないことを慎重に確認しました。

火星には風で形成された砂丘が数多く存在しますが、これらの堆積物は風で形成された堆積物の特徴を持たないため、風によるものではないと判断されました。

また火山活動による堆積物であれば、溶岩の成分や地層の乱れが見られるはずですが、それも確認されていません。

これらの点から、今回発見された地層は海の波によって海岸線に運ばれ、堆積した砂の層である可能性が極めて高いと結論づけられたのです。

以上の結果は、火星がかつて地球のように温暖で水が豊富な環境を持っていたことを示唆する重要な証拠となります。

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約36億年前のユートピア平原に広がる海の予想図(オレンジ星:祝融号の着陸地点、黄色星:パーサヴィアランスの着陸地点)/ Credit: UC Berkeley – Ancient beaches testify to long-ago ocean on Mars(2025)