世界初の量産アクティブサスは異次元の乗り味を実現した
エンジンは4.5リッターのV8だ。各気筒4個の32バルブを持つDOHCの自然吸気エンジンである。最高出力は280㎰/6000rpm、最大トルクが40.8㎏m/4000rpmだ。分厚いトルクを広範囲で発生する能力は素晴らしい。
とても静かなエンジンである。アイドリング状態ではほとんど音が聞こえない。かすかな振動にエンジンの回転を知るだけだ。ATは4速で通常は2速発進になる。強大なトルクの効果で、それでも十分に力強いスタートが味わえる。V8の威力は、やはり大したものだ。キックダウン域までアクセルを踏み込めば、一瞬の間をおいてギアは1速にシフトダウン。豪快な加速を始める。だが1速を使う機会はほとんどないだろう。
0→100㎞/h加速は、メーカー計測値で7秒を切るという。メルセデスの500SELより0.5秒以上速い。最高速度も250㎞/h以上の実力だ。つまりインフィニティQ45の性能はラグジュアリーカークラスで文句なしの超一級品である。日本ではフルに性能を味わうことは当然できないが、余裕の大きさは贅沢感に結びつく。ハイウェイ100㎞/hの巡航状態では、エンジンは2000rpm弱でゆるゆる回るだけ。まったく大きなゆとりなのだ。

乗り心地はコンベンショナルなサスペンションのモデルも、アクティブサスペンションのモデルも低速域は少し悪い。低速時の固さの点ではアクティブサス仕様のほうが不利なようだが、路面変化に対するバネ上の動きの変化幅は少ない。だから一般良路の乗り心地は、むしろよく感じるケースが多い。不利に感じるのは、主としてハーシュネス系のショックである。
それにしてもアクティブサスの乗り心地は、低速域を除いて実に素晴らしい。ほとんどの凹凸を平滑化してしまい、嘘のようにフラットな乗り心地が味わえる。連続するうねりをパスしても、よほどひどく、かつ非日常的なスピードを出さない限り、まるで魔法のようにフラット化してしまう。ハードにブレーキングしようと加速しようと、アクティブサスは車体姿勢を崩さず、しかも不自然さを感じさせない。コーナリングでも同じだ。
アクティブサスは“夢のサスペンション”といわれてきた。現実にその世界初の市販モデルに乗ってみて、確かにそうだ、とボクはうなずいた。
現在のアクティブサスは3㎰のパワーロスと、60㎏のウェイト増になる。そのマイナスを考え合わせても、高級車のサスとして魅力は大きい。長年の夢だったこのサスの、世界初の市販化に成功した日産の技術と努力にボクは拍手を贈る。これが起爆剤になって、世界の高性能車のサスが新たなステップに入る時期が早まるのを望んでいる。

これまで“ハイテク”と称する日本の技術は未熟なものが多く、“ギミック”と欧米に皮肉られてもやむを得ない実情があった。だが、状況は変わった。アクティブサスにしても、スーパーHICAS(4WS、北米仕様車にも設定)にしても、完全に実力と魅力を備えた本物のハイテクに育っている。もう誰も“ギミック”と後ろ指をさすことはできない。
そう、メカニズムでも“JAPANオリジナル”を標榜するにふさわしい高度な新技術を、インフィニティQ45は身につけているのである。
スポーツマインドにあふれた走行性能がアイデンティティ
ステアリングを握ると、まず微舵領域の正確性と滑らかさに感心する。これは文句なしに世界の一級品といっていい。いままでの日本車の弱い部分だが、その弱点を見事に払拭している。
ステアリングの微舵領域の扱いやすさは、とくにハイウェイ走行などでありがたい。また夜間視力の弱いドライバー(40歳以上の夜間視力はかなり落ちる)にとっても、とてもうれしいものだ。無駄な動きをぐっと減らすアクティブサスと、微舵領域で正確なパワーステアリングの組み合わせは、各種シチュエーションでドライバーを助け、走りを楽なものにしてくれる。
1.8tクラスのクルマとは、とても思えないほどの身軽さでワインディングロードをこなすインフィニティQ45だ。その身のこなしは、スポーティサルーンを名乗る資格が十二分にある。
ただし、エンジンが重いせいか、バランス的には明らかに前輪荷重が大きいという感じがする。タイトターンでは定常的にアンダーステアが強く出がちな傾向がある。フィナルステアにも、いまひとつスムーズさがほしい。しかし、こうしたクルマの特徴を頭において走りさえすれば、インフィニティQ45は本当によく走る。ずっとウェイトの軽いクルマのように走る。
高速のスタビリティは、このクラスのクルマとしては世界一といっていい。ワインディングロードよし、ハイウェイもよし……とにかくインフィニティQ45の、走りのトータルな実力は高い。とくに、アクティブサスを組み込んだモデルは、いろいろな点で従来の基準を書き換えた。その先にある未来のクルマの走りのビジョンを、予想させてくれる。
若者ではないが年齢はそう高くない、まだまだエネルギーがあふれている人たちが、インフィニティQ45に目を向けるとしたら、多少コンフォートの面は物足りなくても、この走りに惹きつけられるとボクは思う。この考え方は、アメリカのマーケットでも通用するに違いない。

インフィニティQ45はラグジュアリークラスの新たな流れを創るかもしれない……ボクはそんな気がしてならない。“JAPANオリジナル”の精神は、ハードウェア上の創造だけでなく、新たなユーザー層をラグジュアリークラスに生み出すところまで、広がり発展するのではないか。ぜひそうあってほしい。既存の価値を利用し、食いつぶすのではなく。新しい価値を提唱し、価値観の創造に挑む。そして新たなユーザー層を開拓するのは、素晴らしいことである。
デビューしたばかりのインフィニティQ45には、まだ未熟なところ、荒い部分、今後に残る課題が存在する。だが、それらの問題点を差し引いても、ラグジュアリーカーの世界に新たな価値基準を問いかけたクルマとして、大いなる成果を生んでいる。
※CD誌1989年12月26日号