【時代の証言_日本車黄金時代】JAPANオリジナルを追求し新たな高級車像を創造した「1989年日産インフィニティQ45」の主張
(画像=インフィニティQ45は、「JAPANオリジナル」を標榜した高級サルーン。カタログでは「日本人の洗練された美意識に、世界で最も新しいテクノロジーを融和させることにその思想を求める車です」という当時の社長、久米豊氏のメッセージを掲載。成功作とはならなかったが、その高い志さ、卓越した技術力は、バルブ期の日本を象徴していた、『CAR and DRIVER』より 引用)

強い主張を込めた造形とドライバーズカーとしての作り込みを徹底

 インフィニティQ45は、とてもオリジナリティの強い姿をしている。それだけに癖もあり、反発を招くケースも多いはずだ。だがボクは拍手で迎えたい。

 最大の理由は、メルセデス・ベンツやBMWなどに似ていないからである。定評ある世界の高級車とは明らかに違う価値観を主張している。

 ボクがインフィニティQ45のルックスで気に入った点は“強さがある”ことだ。日本車には美しい姿のクルマはあっても、強い姿をしたクルマが少なかった。アッパークラスのサルーンには、とくにそんな傾向がある。

 インフィニティQ45は違う。このクルマはどこにいても、どんなクルマと並んでも、自己をはっきり主張して後に引かない。箱根の試乗会で、ある雑誌がメルセデスSクラス、BMW7シリーズ、ジャガー、セルシオのライバル車を持ち込み、インフィニティQ45と並べている現場に出会った。そこでのインフィニティQ45は強い個性を放っていた。

【時代の証言_日本車黄金時代】JAPANオリジナルを追求し新たな高級車像を創造した「1989年日産インフィニティQ45」の主張
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 インフィニティQ45は、欧米の作り上げた高級車の伝統的価値観に引きずられることなく、リスクを承知で新しい価値観に挑戦した。そして、その成果を十分に引き出していると思う。

 インフィニティQ45のノーズにはグリルの代わりに、大きなオーナメントが光っている。“唐草模様”的なこのオーナメントは、初めて見る人の多くに拒絶に近い反応を引き起こすようだ。アメリカ人やヨーロッパ人も同じである。かくいうボクも、拒絶反応組のひとりだった。ところが、何度か見ているうちに、少しずつネガティブな印象が薄れていった。アメリカでの印象度調査でも、デトロイトでの初デビュー時の拒否パーセンテージは高く、60%以上の比率でノーという人が多かったと聞いた。が、10カ月後の現在、その印象は逆転しているそうである。

モダンデザインで高級感を演出。室内は包まれ感が好印象

 サイドウィンドウモールは継ぎ目なしのアルミ製。実に美しい。透明度が高く硬質なその光は、遠目にもクルマの高級感を強くアピールする。個性的なグリーンハウスのたたずまいを、くっきりと強調し他との差別感を鮮明にする。インフィニティQ45のルックスの強さの秘密のひとつはここにある。

【時代の証言_日本車黄金時代】JAPANオリジナルを追求し新たな高級車像を創造した「1989年日産インフィニティQ45」の主張
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 ドアハンドルの特徴のある楕円形デザインも、好き嫌いが分かれそうだ。が、アルミダイキャスト製ハンドルの質感は高い。指が触れたときのタッチのよさもベストだ、プラスチック製のドアハンドルに比べると、100円ライターと高級ライターほどの違いがある。

 インテリアにウッドパネルをまったく使っていないところも、ボクは気に入った。これも、既存の高級車の文法への反発だし、“JAPANオリジナル”の旗印のもとの挑戦である。このところ、大衆車クラスまで、本物かそうでないかを問わずウッドパネルの使用に染まってきた。そんな流れの中でインフィニティQ45の、モダンデザインで高級感にアプローチした手法は新鮮である。

 ところでインフィニティQ45のインテリアを見ると、ドライバーズカーであることがすぐわかる。同時に、“高性能車のドライバーを包み込むための空間構成”に意を注いだということを理解した。高級車には快適なくつろぎの空間が必要だとは誰もがいうが、最高速が250㎞/hに達する高性能となると単純なくつろぎ感の演出だけでは足りない。ドライバーに適度な緊張感と、自信を与えることも必要だ。それには、ややタイトな感じの空間構成がいい。これはボクが以前から考えてきたことだ。

【時代の証言_日本車黄金時代】JAPANオリジナルを追求し新たな高級車像を創造した「1989年日産インフィニティQ45」の主張
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 インフィニティQ45のドライバーを包むのが、まさにそれだ。余裕たっぷりの空間を、デザイン手法によって巧みにタイト感を演出しているのである。このクルマは、大型車としては異例に振り回しやすい。むろんシャシー性能の優秀さが第一の要因だが、ドライバーがクルマと一体感を感じるタイト感を演出したことの効果も大きい。そして、これもまた“JAPANオリジナル”を追う心が生んだ、と思いたい。