培養皿の中で“胎児の脳”に近づこうという試みが、今、大きく進展しています。

ヒトの細胞から作られた小さな脳“オルガノイド”に、大脳や小脳など複数の領域を組み合わせ、さらに血管のもととなる細胞も加えることで、胎児脳とよく似た多様な細胞を持つミニチュアの脳が出来上がりました。

研究者によれば、この“融合オルガノイド”は胎児期の脳に見られる細胞タイプの約80%を含んでいるとのことです。

自閉症や統合失調症といった、動物実験だけでは解き明かしにくい複雑な脳の病気の研究に役立つのでは、と期待が高まっています。

一方で、ヒトの脳構造に近づくほど「意識や痛みを感じるのではないか?」という倫理的な問題も浮上。

まだその段階には遠いと専門家は言うものの、技術が進むほど社会的な議論も必要になるでしょう。

果たして培養皿の上で育つミニチュアの脳は、私たちの医療や科学をどこまで進歩させるのか――最先端の研究をのぞいてみましょう。

研究内容の詳細は2025年2月19日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました

目次

  • ついにここまで来た!多領域脳オルガノイド
  • 衝撃の成果:融合脳オルガノイドが“胎児脳”に近づく
  • これは医学の夜明けか、それとも禁断の領域か

ついにここまで来た!多領域脳オルガノイド

培養皿で育つ人間の融合脳が胎児の段階に到達
培養皿で育つ人間の融合脳が胎児の段階に到達 / Credit:clip studio . 川勝康弘

脳のオルガノイド研究は、2013年頃から急速に注目を集めてきました。

これは、ヒトの幹細胞(ES細胞やiPS細胞など)を培養することで、試験管の中に立体的な脳組織の“ミニチュア版”を再現する技術です。

最初は大脳皮質だけ、小脳だけ、といったふうに特定の領域を限って作られたケースが多かったのですが、ヒトの脳疾患は往々にして複数の領域や細胞タイプの異常が絡み合うため、より包括的な“丸ごとの脳”に近づけたいという研究ニーズがありました。