これまでの物理の理論では「一定のエネルギーバランスを満たす大きさ」ごとに泡が作られやすい、と予測されてきましたが、まさにその通りの現象が目の前の量子ビットから得られたデータに表れたわけです。
さらに、泡が大きくなるには隣り合った泡と“やり取り”をする必要があったり、小さな泡は移動しやすいけれど大きな泡にはなりにくい――など、複雑な振る舞いもはっきり映し出されています。
もし現実の宇宙で“真空崩壊”が本当にどこかで始まったなら、こうした量子レベルのトリガーから誕生したバブルが光速近くの速さでみるみる膨れ上がり、星々や銀河さえのみ込んでしまうかもしれません。
わずかな違いで安定を保っているかに見える広大な宇宙が、一瞬にして別の相(真の真空)に塗り替わってしまう――今回の実験結果は、まさにその驚くべきシナリオの“縮図”を目の前に示しているともいえるでしょう。
これらの結果は、真空が崩壊するときに起こる「最初の一滴」のような泡の生成から、複数の泡がどう広がり合うかまで、実験室スケールで直接追いかけることに成功したことを示しています。
理論的には長い間想定されていたメカニズムが、量子ビットの反転という目に見える形で初めて観測され、泡同士が衝突して形や大きさを変えていくダイナミクスまでも把握できるようになりました。
こうした観察から得られる知見は、従来の理論をさらに発展させる糸口となり、宇宙論だけでなく量子物理の基礎研究にとっても大きな意味を持つと期待されています。
果たして宇宙は崩壊するのか?

今回の実験で明らかになったのは、理論で長らく議論されてきた「真空崩壊」の鍵となるポイント――“泡が生まれてから大きくなるまでの過程”――を、量子ビットという人工的で制御しやすい場でリアルタイムに観察できるという事実です。