こうした行動は、進化の過程で「群れ全体の生存率を高める」ために有利にはたらいた可能性があります。
仲間を救えば、自分自身にとっても将来的に利益がある——それが自然界の厳しい環境で生き延びるための一つの戦略なのかもしれません。
同時に、今回の結果を人間の心肺蘇生法(CPR)などと完全に同一視することはできない点にも注意が必要です。
マウスは舌を引っ張ったり異物を取り除いたりしていますが、人間が行うような高度な技術を身につけているわけではありません。
それでも仲間を回復させるうえで効果があったことは事実であり、その背後にはオキシトシン放出ニューロンなど、共感や愛着を司る脳内メカニズムがかかわっていると考えられます。
今後は、野生のマウスや他の小型げっ歯類でも同じ行動が見られるのか、どれほど多くの動物にこの“助け合い”が広がっているのかを調べる研究が期待されます。
この発見がさらに進めば、私たちの「動物の社会性」に対するイメージが大きく書き換えられるだけでなく、人間の思いやりや助け合いの本質を見つめ直すヒントにもなるかもしれません。
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元論文
Reviving-like prosocial behavior in response to unconscious or dead conspecifics in rodents
https://doi.org/10.1126/science.adq2677
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部