死んだ個体に対しても、口や舌を噛むといった強めの刺激行動が見られたと報告されており、マウスたちが「反応のない相手」に対して共通の行動をとる傾向があるのではないかと考えられています。
このように、たった数分の観察時間のうちに、マウスたちが倒れた仲間を単なる好奇心ではなく、あたかも「回復を促すかのような」行動で刺激している事実が確かめられました。
研究チームによれば、マウスが仲間を助けるのは、学習によるものだけではなく、もともと備わった本能的な行動である可能性が高いと考えられています。
実験に用いられたマウスは生後2〜3か月ほどで、倒れた仲間にこうした「応急処置的な行動」をするのを見た経験はなかったはずです。
それでも口を開け、異物を取り除くような行動を自然にとれたということは、経験や訓練ではなく「生まれつきのプログラム」によって行われていると推察されます。
さらに、麻酔をかけられた相手が「よく知っている仲間(同じケージで暮らしていたマウス)」であるほど世話をする時間が長くなることもわかっています。
これは、仲間との結びつきが強いほど助けようとする気持ちが強まる証拠かもしれません。
そして、その背景には脳内の「オキシトシン放出ニューロン」が重要な役割を果たしていると研究者たちは指摘しています。
オキシトシンは、ヒトを含む多くの哺乳類で「社会的な絆」や「思いやり」といった行動を引き出すホルモンとして知られており、出産や授乳にも欠かせない存在です。
今回の結果は、このオキシトシンがマウスの“助け合い”の本能にも深く関わっている可能性を示しています。
なぜマウスは仲間を救うのか?
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今回の研究が示す「マウスによる応急処置的行動」は、これまでの常識を大きく覆す発見だと言えます。
社会性や知能が高いとされる動物だけが仲間を助け合うと考えられてきましたが、実はごく小さなマウスにも、倒れた仲間を回復させようとする積極的な本能が存在していたのです。