ドイツは輸出大国だ。その原動力は自動車産業だが、ドイツ自動車を毎年、大量に購入してきた最大の顧客・中国で安価な電気自動車が市場に進出すると、ドイツ製自動車の中国市場での売り上げは激減。メイド・イン・ジャーマニーのブレンドは大きな試練を迎えている。例えば、ドイツの大手自動車メーカー、フォルクスバーゲン社は創立最大の試練に直面している。
ショルツ首相の説明を聞く限り、「時代が悪かった」ということになる。通常の時代だったら、ショルツ政権は上手くいっていた、といった無念の思いが見え隠れする。ただ、ショルツ首相自身は「時代の転換期」を感じ、それを宣言して政権を始めたはずだ。平和な時代に政権を継承したのではないことをショルツ首相自身が認識していたはずだ。
ショルツ首相のために言うならば、社民党、「緑の党」、FDPの3党は政治信条が元々異なっていた。だから、3党連立政権が発足した当初から、「寄せ集め所帯」といわれ、政権内で絶えず、意見、政策の相違から対立を繰り返してたきた経緯がある。最後は、財政問題でショルツ首相とFDPのリントナー財務相との間で対立し、その結果、政権は崩壊していったわけだ。
一つ指摘したい点がある、ウクライナ戦争が直接の契機となってエネルギー危機に直面したが、ショルツ政権は2023年4月、脱原発を完了したことだ。その結果、先述したように、エネルギーコストの急騰、それに伴うドイツ製品の競争力低下などをもたらした。産業界では当時、脱原発に強く反対する声があったのだ。しかし、ショルツ連立政権は政権発足以来、「再生可能なエネルギーからより多くのエネルギーを生成する国になる」と表明し、その課題を「巨大な使命」と呼んできた。すなわち、ウクライナ戦争で生じたエネルギー危機に直面しながら、先ず「脱原発あり」といったイデオロギー先行の政策を実行してしまったのだ。
ただ、問題点だけではない。社民党と「緑の党」は安全保障政策では従来の平和政党といった看板を下ろし、ウクライナ支援に積極的に乗り出した。ウクライナ戦争がなければ、両党の安保政策は依然、平和外交に終始していたかもしれない。その意味で、「時代の転換期」という看板からいえば、ショルツ政権はその使命を果たそうと努力したことは事実だ。