研究チームは、エジプトのカイロ博物館に保存されている9体のミイラを対象に、最新の化学分析技術を用いて香りの成分を特定しました。
これらのミイラの中で最も古いものは新王国時代(紀元前1570年〜紀元前1069年)に遡るものであり、3500年前の葬送儀礼における香りの重要性を探る貴重な手がかりとなりました。
研究チームは、ミイラからごく微量のサンプルを採取し、それをガスクロマトグラフ質量分析計で解析しました。
この装置を使うと、複雑に混ざり合った香りの成分をひとつひとつ分解し、それぞれの化学組成を特定することができます。
さらに、研究チームは嗅覚に関して訓練を受けた専門家に依頼し、実際に香りを嗅いで評価するという方法も併用しました。
その結果、ミイラの香りは「ウッディ」「スパイシー」「スイート」という3つの要素が組み合わさったものであることが判明しました。
ミイラは案外いい香りだったのです。
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これは、防腐処理に使用された松脂や杜松(としょう)、没薬(もつやく)、乳香(にゅうこう)、シナモンなどの樹脂や香料が、長い年月を経ても揮発し続けていたためです。
そしてこのような香料は、死者を神聖な存在として扱うための儀式的な役割を果たしていたと考えられます。
古代エジプト人は、死後の世界に旅立つ際に、良い香りを纏うことで神々に歓迎されると信じていたのです。
今回の研究の成果は、単にミイラの香りを特定するだけにとどまりません。
これらの香りの成分をもとに、古代エジプトで使われていた香料の「レシピ」を再現できる可能性があるのです。
たとえば、没薬やシナモンの配合を調整することで、「3000年以上前の古代エジプトの香水」を現代に蘇らせることができるかもしれないのです。