研究チームは、食道がんの発生メカニズムを解明するため、2つの重要な遺伝子「ALDH2」と「TP53」に着目しました。
TP53は細胞の異常を感知し、がんの発生を抑える「がん抑制遺伝子」です。
しかし食道がん患者の多くは、このTP53に変異が起こっていることが知られています。
これまでの研究では、ALDH2遺伝子が欠損したマウスや、TP53遺伝子に異常のあるマウスにアルコールを飲ませても、食道がんは発生しませんでした。
そこでチームは、ALDH2が機能しない状態かつTP53が欠損しているマウスを作り、そこにアルコールを長期投与するという実験を行いました。
その結果、このマウスでは食道がんが高確率で発生し、さらにフィールドがん化現象も確認されました。
つまり、「アルコール摂取」「ALDH2の機能低下」「TP53の変異」という3つの条件が揃うと、食道がんが多発しやすくなるということが科学的に証明されたのです。
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この研究の結果、次の3つのことが明らかになりました。
1:ALDH2が機能しないと、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすくなる
2:TP53に異常があると、傷ついた細胞を修復できず、がんが発生しやすくなる
3:アルコールを飲み続けることで、食道粘膜にDNA変異が蓄積し、多発性のがんを引き起こす
これまで疫学的には「飲酒と食道がんの関係」は知られていましたが、それが実際にどのように発生するのかを動物モデルで証明したのは、今回が初めてです。
お酒を飲むとすぐに顔が赤くなって酔っ払う人はALDH2の機能が遺伝的に低く、飲酒で食道がんになるリスクも高いので、注意が必要でしょう。
今回の研究成果は、食道がんの予防に大きな影響を与える可能性があります。