実際のところ、親ロシア勢力に支援されているかどうかは、政権担当の資質審査になりうる重大事項だ、というのが、既存の欧州の政治家たちの間の雰囲気だ。しかし、その雰囲気の閉塞感が、生活の現実における物価高などと重なり合って、極右と描写される新興の政党の得票数を伸ばす結果をもたらしているのも、現実である。

つまりバンス副大統領の演説が、既存の政治家層にとって看過できないものだったのは、新興の政治勢力に勢いを与え、自分たちの政治基盤を掘り崩す効果を持ちかねないものであったからだ。

すでにそうした右派系の新興の政治勢力は、ハンガリーやスロバキアで、現実に政権を担当している。オランダでは第1党がそれに該当するし、その他の諸国でも軒並み存在感を高めている。欧州最大の人口と経済規模を持つドイツで、AfDが躍進すれば、この流れにさらに大きな弾みがつくことは間違いない。

もっともその流れは、既存の政治エリートと新興政治勢力の間の摩擦を生み、混乱を伴うものになるだろう。バンス副大統領の演説の本質は、この状況がもたらす事態をにらんだものだったと言える。

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