バンス米国副大統領が、ミュンヘン安全保障会議で行った演説が、大きな話題だ。ロシアを敵視して、同盟諸国の結束を称え合うのが、ここ数年の通例であった。ところがバンス副大統領は、欧州諸国の民主主義のあり方に疑義を呈した。そして防衛政策の是非を論じる前に、欧州諸国で民主主義の価値観が失われていないかを確認するべきだと訴えたのだ。
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バンス副大統領インスタグラムより
バンス演説は、欧州諸国に非協力的なトランプ政権の姿勢の象徴として受け止められた。そしてトランプ政権が、標準的な安全保障政策に反し、ウクライナを見捨ててロシア「宥和」政策を進めてようとしていることの証左と解釈された。
確かにミュンヘンでゼレンスキー大統領と会談したバンス副大統領は、あらためて停戦を促進していくトランプ政権の立場を強調した。
トランプ大統領がロシアのプーチン大統領に電話をして停戦に向けた協議をすることで合意したことに、ウクライナのゼレンスキー大統領は強い不満を表明している。これまで「ウクライナは勝たなければならない」という立場を貫いてきた欧州の政治家たちにとっても、不満だ。そこでバンス副大統領の演説を、「欧州に対する侮辱」と受け止めた。そして欧州の政治家たちが、次々と感情的な反発を表明した。
バンス副大統領は、ミュンヘンを訪問したにもかかわらず、ドイツのショルツ首相との会談を行わなかった。すぐに交代する、という考えによるものだったという。2月下旬に予定されている選挙で、連立政権を組んでいる社会民主党や緑の党は、極右とされるAfDの後塵を拝して、第三勢力に沈むと予測されている。
こうした点を考えると、バンス副大統領に、欧州の既存の政権担当者が感情的な反応をしたのも無理はない。だがそれはバンス副大統領も、計算済だろう。そこで「トランプ政権がAfDを助ける内政干渉をしている」といった赤裸々な反応も出ているのである。
バンス副大統領が繰り返し参照したのは、ルーマニアの大統領選挙が無効になった事例だ。選挙で首位になったジョルジェスク氏が、親ロシア的な勢力の運動と結託していた、という理由で、選挙がやり直しになった。今や欧州では、ロシア寄りの言説に味方してもらっているかどうかが、大統領選挙の結果を無効にする理由になりうる。これは言論の自由を原則とする民主主義国のあり方としておかしいのではないか、という趣旨の主張を、バンス副大統領は行った。