これによって生まれるのが、一瞬だけ時間が引き延ばされたかのような錯覚です。

ふとした瞬間に時計を見ると、効果はより大きいかもしれない
ふとした瞬間に時計を見ると、効果はより大きいかもしれない / Credit:Canva

また、この効果は「対象が安定している」と感じられる場合に顕著に表れます。

サッカードの最中に対象が移動してしまうと、連続性が保てずクロノスタシスが起こりにくくなることも報告されています。

実際にどれほど時間が歪んでいるのでしょうか。

視線を22度急速に動かしたとき、被験者は秒針が止まっていたと感じる時間はおよそ数十ミリ秒単位でした。

角度が大きい55度になると、その錯覚がさらに大きくなり、約70ミリ秒前後もの余分な時間を知覚していた可能性が示唆されています。

もちろん個人差はあるものの、こうしたわずかなズレが主観的には「秒針が止まった」というはっきりした印象を与えるには十分なのです。

クロノスタシスは決して珍しい特殊な現象ではなく、むしろ脳が普段から行っている情報の補正が、一瞬だけ垣間見える現象だといえるでしょう。

私たちが当たり前に感じている連続的な視界は、実際には脳の微妙な再構築作業によって成立しており、その副作用として時計の秒針が止まっているように感じられるわけです。

聴覚でも起こる「時間の錯覚」

さらに、クロノスタシスは聴覚でも同様の時間延長が起こりうることが示唆されています。

「電話の呼び出し音を待つとき、次の音がなかなか鳴らないように感じる」という体験を実験で再現し、その錯覚を聴覚クロノスタシスと呼びました。

研究では、被験者にヘッドフォンを装着させ、まず片耳からの音の高さ(ピッチ)を判別する課題に集中させます。

そして課題終了後にもう片耳へ注意を移し、無音区間の長さを評価してもらいました。

すると、注意を移した直後に聞こえる最初の無音区間が、客観的な長さよりも長く感じられる傾向が明らかになったのです。

これは、視覚クロノスタシスと同様に「脳が新たな入力チャンネルに注意を向ける瞬間に時間が引き延ばされる」というメカニズムを示唆するものです。