時計の秒針を見た瞬間、なぜか止まったように見える。
そんな奇妙な体験をしたことはありませんか。
この現象には「クロノスタシス(chronostasis)」という正式な名前があり、脳の情報処理や注意の向け方が深く関わっているとされています。
しかも、この時間が伸びたように感じる現象は、視覚だけでなく聴覚でも起こりうることが近年の研究で示唆されています。
クロノスタシスが起こるメカニズムや、私たちが当たり前と思っている時間知覚がいかに脳によって再構築されているのか、その背景に迫ってみましょう。
目次
- 「時計が止まった!」クロノスタシスのメカニズム
- 聴覚でも起こる「時間の錯覚」
「時計が止まった!」クロノスタシスのメカニズム

クロノスタシスの代表例として有名なのが、「秒針を見た瞬間に時計が止まったように見える」という現象です。
Kielan Yarrowらは、被験者が視線を別の場所へ移すサッカードと呼ばれる急速な眼球運動と、時間の知覚がどう結びついているのかを調べました。
その結果、サッカードの距離(角度)が大きいほど、「秒針が止まっている」と感じられる時間も長くなる傾向が示されたのです。
なぜ、このような時間の伸びが生じるのでしょうか。
大きな要因として、サッカード中の視覚情報の空白を脳が巧みに補完していることが挙げられます。
人間の視線は高速移動中、外界の映像を鮮明には捉えていません。
もし脳がこのブレた映像をそのまま私たちに届けてしまうと、世界は常に揺れ動いて見えるはずです。
しかし、私たちは日常でそんな感覚をほとんど持ちません。
これは脳が、サッカード前後の映像をつなぎ合わせて、連続したひとつの視界としてまとめ上げているからだと考えられています。
視線をずらした瞬間に見ている対象が実際には動いていないのに、脳は「同じ場所にある同じものを見続けていた」と判断し、その状態をあたかもサッカード前から継続していたかのように処理してしまいます。