日本を代表するアニメ制作会社であり、昨年には宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』が米アカデミー賞授賞式で長編アニメーション映画賞を受賞したスタジオジブリ。そんな同社の事務所内に掲出されている、以下の7カ条からなる「去ってほしい社員の条件」が社訓ではないかとSNS上で話題となっている。

・知恵のでない社員 
・言わなければできない社員
・すぐ他人の力に頼る社員
・すぐ責任を転嫁する社員
・やる気旺盛でない社員
・すぐ不平不満を云う社員
・よく休みよく遅れる社員

 Business Journalの取材に対しスタジオジブリは「社訓ではない」と説明するが、どのような位置づけのものなのか。同社、同社と関係の深い人物への取材を交えて追ってみたい。

『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など数多くの大ヒット映画を生み出してきたアニメ制作会社のジブリ。『天空の城ラピュタ』制作時の1985年に徳間書店によって設立され、同作のヒットを足掛かりに、当時では珍しく企画から制作までをこなす独立系で、かつ原則長編アニメーション映画だけを手掛けるアニメスタジオとして、宮崎氏と高畑勲氏の両監督を中心に次々とヒットを連発してきた。アニメーターの低賃金化が定着していた業界で、先駆けてスタッフの正社員化と固定給化により待遇改善を図り、のちの業界全体の待遇改善に寄与したともいわれている。

 2001年公開の『千と千尋の神隠し』は20年公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に抜かれるまで国内歴代興行収入1位に君臨し、同ランキングトップ10には『もののけ姫』(1997年公開)、『ハウルの動く城』(2004年公開)を含む3本のジブリ作品が名を連ねている。海外でもその存在は認められており、03年には『千と千尋の神隠し』が米アカデミー賞の長編アニメーション部門でオスカーを受賞するという快挙を達成。15年にも『かぐや姫の物語』が同賞にノミネートされるなど、ジブリ作品は海外でも高い評価を得ている。

 スタジオジブリの中心的な存在が宮崎駿監督だ。13年の『風立ちぬ』公開後に引退を発表したが、その4年後の17年に新作長編映画の制作に取り掛かることを発表し、現役に復帰。23年公開の監督作『君たちはどう生きるか』が2度目のオスカーを獲得し、日本中を賑わせたことは記憶に新しい。

「社員に読ませることもありません」

 そんなスタジオジブリの社内に掲げられた前述の「去ってほしい社員の条件」が話題を呼んでいる。同社の代表取締役でプロデューサーの鈴木敏夫氏の部屋に貼られたものだが、SNS上では同社の社訓か経営理念ではないかという声もある一方、

<これは鈴木敏夫プロデューサーが「潰れた会社にこんなのが貼ってあった」と言って持ってきたモノで、「こんなつまらない事やるから潰れるんだ」と言うアンチテーゼだと聞いたことがあります>

<皮肉、反面教師として掲示したのだと思います>

<鈴木Pの皮肉なのかギャグなのか半分真面目なのか>

などとさまざまな見方が寄せられる事態となっている。

 そこでスタジオジブリに話を聞いた。

「これは鈴木プロデューサー(P)の部屋に現在も貼られていますが、社訓などではありません。2000年に公開された『式日』(庵野秀明監督)の撮影で山口県宇部市内に行った際に、とあるビルのゴミ箱に捨てられていたものを鈴木Pが面白いと思って拾って持って帰ってきたものです。かつて弊社でプロデューサー見習いをしていたドワンゴ創業者の川上量生さんもこれを気に入って、自分の会社に貼っていたようです。弊社では、この7カ条を朝礼で読むこともありませんし、社員に読ませることもありません。これを持ち出して社員に退職を迫るということもありません」

 では、鈴木Pはこの7カ条の内容に肯定的なのか。逆に、ここに書かれた条件に該当する社員を排除するような企業は潰れるという意味で貼っているのか。

「それについて本人が何かを言ったことはないので分かりませんが、気に入っているということなのだと思います」(同)