拳でコンコン(ナックル・ノック:Knuckle-knock):指の関節(ナックル)で硬い表面を叩き、軽いノック音を出します。
葉バリバリ(リーフ・クリップ:Leaf-clip):葉をちぎってパリパリという音を出します。
これらのジェスチャーはどれも「目立ちすぎずに相手の注意を引く」性質を持ち、ときには「こっそり交尾」を望む場面でも使われると考えられます。
さらに、コミュニティ間で使用されるジェスチャーの頻度には明確な差があることが明らかになりました。
北東コミュニティ: 「拳でコンコン」を多用し、交尾勧誘全体の約56%に該当します。一方で、「かかと落し」の使用頻度は他のコミュニティに比べて低くなっていました。
東・南コミュニティ: 「枝揺らし」や「かかと落し」を多用する一方、北東で頻繁に使用される「拳でコンコン」はほとんど観察されず、「葉バリバリ」も特定のオスが時折行う程度です。
北コミュニティ: 過去の観察では「拳でコンコン」が常習的に使われていたものの、本研究期間中は一度も確認されませんでした。その代わりに、「かかと落し」や「枝揺らし」が多く見られました。
さらに、研究チームはウガンダのソンソ(Sonso)地域の野生チンパンジー社会とも比較を行いました。
そちらでは、タイ国立公園で一般的な「Heel-kick」や「Knuckle-knock」は観察されず、代わりに「物叩き(object slap)」と呼ばれる両手で物を叩くジェスチャーや「葉バリバリ」を交尾勧誘の主要な手段として使用していることが分かりました。
これらの違いは、機能的には同じ目的(交尾勧誘)を持つジェスチャーでも、コミュニティごとに多用される種類が異なる、すなわちコミュニティ固有の“方言”が存在することを示す重要な証拠です。
しかし、今回の研究では悲しい事実も明らかになりました。
人間はチンパンジーの文化も破壊している
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