共産主義及び共産党退潮の第二の原因は経済的原因である。マルクスは主著『資本論』で、「資本主義が発達すればするほど労働者階級は窮乏化する」(窮乏化法則)と説いたが、欧米・日本などの先進資本主義諸国では労働者階級の窮乏化が起こらず、逆に労働者階級の生活水準は向上して豊かになり、階級闘争による社会主義革命の条件が消滅した。

具体的には、日本では男女の賃金格差や、非正規雇用の増加などの課題はあるが、人手不足などで失業率が2%台に低下し、名目賃金も5%台に上昇し、年金・医療・介護などの社会保障制度も整備されている。そのため、労働者階級の間でもマイカー・マイホーム・電化製品・海外旅行なども普及した。

生活水準の向上は他の先進資本主義諸国の労働者階級も同様である。すなわち、マルクスの「窮乏化法則」は先進資本主義諸国では破綻しているのである。勤労者世帯の平均貯蓄額は1474万円(中央値836万円)である(2024年5月総務省統計局)。

このように、マルクスが唱えた、社会主義革命の主体である労働者階級の窮乏化が起こらず、逆に生活水準が向上して豊かになれば、ストライキなど資本家との階級闘争も激減するから社会主義革命が起こらないのは歴史的必然であり構造的問題であると言える。

労働者が豊かになればなるほど衰退する共産党

以上からいえることは、構造的に「先進国革命」はもはや不可能だということである。なぜなら、「労働者階級の窮乏化」という社会主義革命にとって最も重要な条件がもはや欧米・日本などの先進資本主義諸国では消滅しているからである。

これらの先進資本主義諸国では「能力に応じて働き必要に応じて受け取る」(マルクス著『ゴーダ綱領批判』)との共産主義の理想も、失業率が低下し、生活水準が向上して豊かになった労働者階級にとっては、もはや魅力を失っている。欧米・日本などの先進資本主義諸国の共産党は、労働者が豊かになればなるほど衰退するほかないのである。