デフレが進行した1990年代後半から2000年代にかけて「ちょっと割高だけど美味しくて健康的」だとして人気を博した和食定食チェーン「大戸屋」。2015年に実質的な創業者である三森久実氏が死去して創業家のお家騒動が起きた頃から業績が低迷。「価格が高い」「料理の提供が遅い」として客数減が鮮明となり業績悪化が叫ばれるようになり、19年には大手外食チェーン運営会社コロワイドから敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けられ、翌年に成立。大戸屋ホールディングス(HD)はコロワイドの連結子会社となり再建に取り組むことになったが、それから約5年、大戸屋は見事に息を吹き返しつつあるという。直近3年の間に一部メニューを3割も値上げしたものの行列ができるほど人気が復活しているという。背景には何があるのか。また、930円と1000円にギリギリ満たない価格の人気メニュー「大戸屋ランチ」が集客の大きな要因となっているが、クオリティや価格を勘案すると価格妥当性やコスパはどのように評価できるか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
1958年(昭和33年)に東京・池袋に三森氏が開業した食堂を発祥とする大戸屋は、全国に400店舗超を展開する大手外食チェーンに発展。安くて速いファストフード店とは一線を画し、ゆったりとした店内で夜でも素材と栄養バランスにこだわった定食を食べられる点が受けて業績も好調だったが、2010年代中頃から変調が見られるように。ごはんのお替わりが無料の定食チェーン「やよい軒」をはじめとする競合チェーンの台頭や経営混乱によるイメージ悪化も重なり、客数減による業績悪化が深刻化。20年にはコロワイドの傘下に入った。その後はコロナによる苦境があったものの、2024年3月期の営業利益は前期比6倍の16.4億円になるなど、回復をみせている。
「結果的にコロワイドの傘下に入ったことは大戸屋にとって正解だった。大手チェーン各社がやっている常識的かつ近代的な経営方式が導入され、コロワイドグループ内での共同調達などのスケールメリットも発揮されたことで、安定的に利益が出る体制が確立された。商品戦略的にも、かつて大戸屋が持っていた良さが取り戻されていると感じる」(外食チェーン関係者)
ほどよいど真ん中を攻めている
なぜ大戸屋は復活したのか。また、大戸屋のメニューのクオリティや価格妥当性はどう評価できるのか。飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。
「大戸屋が復活している要因としては、海外進出をはじめ様々な点があると思いますが、改めて店舗で実食した上でクオリティやコスパなどの面から考えてみたいと思います。新宿西口大ガード店で『大戸屋ランチ』を注文してみました。メニュー名は『ランチ』となっていますが、お昼以外の時間帯のいつでもオーダー可能です。ランチいう言葉には手軽さやセット、お得といったイメージがあるので、あえてランチと名付けていると思われます。料理のメインは大きめのかぼちゃコロッケと、小ぶりな竜田揚げ3個。玉子の黄身やキャベツ、トマトが添えられた1皿に、白米か五穀米、味噌汁、漬物が付いてきます。
味は濃すぎず薄すぎず、ほどよい味付け。多くの人が好きなチキンの竜田揚げと、黄色が綺麗で見た目も可愛いかぼちゃコロッケの組み合わせは喜ばれそうです。ボリューム的には、女性にはちょうどよく、男性には腹八分を超えるくらいに思え、少ないという印象はありません。つまりクオリティや価格としては、ほどよいど真ん中を攻めていると思います。3年前から3割上がったといっても、今ではランチやラーメンが1000円の壁を超えているお店も多いので、930円というのは十分がんばっているといえます。
大戸屋の料理は普通といえば普通なのですが、無難ないいところを攻めていると思います。同じ価格帯で同じような味なら、消費者は立地やサービス、手軽さ、安心感などの観点から複数の店舗を比較することになりますが、大戸屋は駅からも近く、サービスは一定の品質で安定しています。そして夜でも定食が食べれるお店はそれほど多くはないため、選ばれやすくなります」