■20年越しのメッセージを聞いて気づいたのは…

留守録に残っていた母のメッセージは、仕事に追われた水本さんが体調を崩してしまい、連絡を絶ってしまいがちだった頃のもの。そんな我が子を心配する内容だったという。

当時、録音を消さなかった背景について、水本さんは「当時から母が私を気にかけてくれていたこと、私がそれにちゃんと応えなかったことの葛藤から、消すにも聴くにも…自分ではどうにもできなかったことや、いつか母がいなくなることを予見し、消したくなかったという思いもありました」「その後、この録音を全く忘れていましたが、残しておいて正解でした」と、振り返る。

そして、20年の時を改めてメッセージを耳にしての心境について、「親不孝者の自分で連絡不精ではありましたが、親の深い愛情という面では嫌になるほど愛情を受けており、うざったいとも感じる反面、同じくらい感謝しておりましたので、そのことをもっと伝えられていれば疎遠になることなく母を見送れたのかもしれないという後悔があります」と語ってくれた。

前出のように、水本さんは吹き替えやアニメのアフレコ、CM撮影などの音声をはじめとする「録音」を生業としている。いわば、声や音のプロフェッショナルだ。

そんな水本さんが今回、電話の録音機能を通じて亡き母との再会を果たしたのは、決して偶然ではないだろう。

「音声のプロ」が20年越しに聞いた母の声の微妙なトーンからは、息子を追い詰めないよう気遣いながら、連絡だけはほしいという、親心が改めて感じられたという。

技術の進歩と共に、記録を保持する媒体・コンテンツは今後も変化していくもの。そしてその中には、今回のように思わぬ形で故人との再会が果たせる、粋な機能が搭載されているはずだ。