国内小売最大手のイオンが、国内全事業所の従業員を対象に就業時間内の禁煙などを決定した。喫煙に対する風当たりが強まる中、この動きは各社に波及する可能性がある。日本たばこ産業(JT)にとっては、逆風といえるだろう。

小売大手のイオンが勤務45分前から喫煙禁止に

2021年1月25日、イオンは新たなニュースリリースを発表した。国内全115社の全事業所の従業員約45万人を対象に、「就業時間内禁煙」と「敷地内禁煙」を義務付けるという内容だ。

イオンは2016年度に「イオン健康経営宣言」をし、従業員に対する禁煙促進の取り組みを行ってきた。今回の決定はその流れを汲むもので、「お客さま及び従業員間での望まない受動喫煙と三次喫煙の防止」を理由としている。

「三次喫煙」とは、喫煙後約45分間は喫煙者の息や衣類などからたばこ成分が出ることで、周りの人に影響を及ぼすことだ。そのため今回の決定では、職場に入る45分前から喫煙を禁止している。

しかし従業員の中には、たばこを我慢できない人もいるはずだ。そこで、イオンは従業員に対して「オンライン禁煙プログラム」などを提供し、禁煙サポートも同時に行うという。

改正健康増進法の全面施行も背景に

今回のイオンの決定の背景には、2020年4月に全面施行された「改正健康増進法(健康増進法の一部を改正する法律)」がある。これは、非喫煙者が望まない受動喫煙をさらに防ぐことを目的とした法律だ。

改正健康増進法が全面施行されたことで、2020年4月から一定条件を満たす場合を除いて原則的に屋内禁煙となり、飲食店などは店内を全面禁煙とするところが増えた。

従業員の禁煙を促進している企業は、イオン以外にもたくさんある。

コシダカホールディングス:従業員に対して「禁煙手当」の仕組み

例えば「カラオケまねきねこ」を展開している大手カラオケチェーンのコシダカホールディングスには「禁煙手当」があり、もともとたばこを吸っていない人やたばこをやめた人に、年間6万円を支給している。

ダイドードリンコ:イオンに先駆けて就業時間中の禁煙を義務化

イオンのように、就業時間中の禁煙を義務化している企業もある。大手飲料メーカーの「ダイドードリンコ」はイオンに先駆け、2020年9月から従業員約700人に対して就業時間中の禁煙を義務付けている。

JTの国内たばこ事業の売上高は右肩下がり

改正健康増進法の全面施行や、企業による従業員に対する禁煙の推進により、喫煙者の減少が加速することが予想される。それは、JTにとって逆風となる。

JTは、たばこを製造・販売する企業だ。喫煙者の減少は、自社の売上高の減少に直結する。同社のIRページによれば、国内たばこ事業の売上高は2015年度以降、以下のように推移している。

2015年度:6,773億円
2016年度:6,842億円
2017年度:6,268億円
2018年度:6,214億円
2019年度:6,115億円

2015年度から2019年度にかけて、国内たばこ事業の売上高は658億円も減少しており、今後もこの傾向が続く可能性が高い。

JTは事業規模の縮小を免れないのか?

日本国内で禁煙の流れが加速する中で、JTの事業規模は縮小していくのだろうか。

同社の事業全体の売上高を見ると、直近5年はほぼ横ばいだ。国内たばこ事業の売上高は落ち込んでいるが、ここ数年は海外たばこ事業の売上高が微増しており、国内たばこ事業の落ち込みをカバーしている。

また、JTはたばこ事業以外に「医療事業」「加工食品事業」を展開しており、本業であるたばこ事業の売上規模には達していないものの、これらを伸ばしていくことで事業規模を維持できる可能性はあるだろう。

ただし、JTの株価は2016年ごろから下落トレンドに入っている。2016年に4,000円台だった株価は現在2,000円台まで落ち込んでおり、2020年は2,000円以下で推移した期間も長かった。個人投資家や投資ファンドの多くが、JTの今後を悲観的に見ていることがわかる。

今後のJTの未来は……明るい?真っ暗?

日本国内でのたばこ事業が落ち込んだからといって、JTがお先真っ暗というわけではない。しかし、事業規模を維持・拡大していくためには、海外たばこ事業や医療事業、加工食品事業の成長が不可欠だ。引き続きJTの動きに注目したい。

 
執筆・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)

国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。  

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