プログラマーやシステムエンジニア(SE)などのITエンジニアを顧客先に常駐させるなどして労働力を提供するSES(システムエンジニアリングサービス)企業。1月7日付「日経クロステック」記事によれば、採用で未経験者歓迎を謳うあるSES企業が、未経験のエンジニアについてJava開発歴が5年あると顧客に対して虚偽の説明をして受注し、当該エンジニアが現場で叱責を受けるなどの精神的苦痛を受けたとしてSES企業を提訴するという事案が起きたという。未経験者がITエンジニアになるための入口ともいわれているSES企業だが、同様の事例は多いのか。また、徹夜や長時間労働が当たり前だった一昔前のIT業界を知るエンジニアからすれば、今のエンジニアの働き方は「ヌルすぎ」にみえるというSNS上の投稿が少し前に話題となっていたが、ITエンジニアの労働環境はかなりホワイト化したといえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 SES企業とは一般的に、顧客企業と準委任契約であるSES契約を締結して業務を遂行し、その対価として報酬を受ける。成果物の完成に責任を負い納品物の検収をもって対価が支払われる請負契約や、顧客の指揮命令下に置かれる派遣契約とは異なる。SIerが発注元であるエンドユーザー企業から請負契約でシステム開発案件を受注し、SES企業はそのSIerから発注を受けて業務を遂行するケースが多い。建設業界と同様に元請け、2次請け、3次請けと多重下請け構造になっているIT企業において、コードを書くプログラミングなどの実務を担っているのがSES企業だ。

「大手のSCSKあたりは顧客企業から直接受注しているケースもあるが、大半のSES企業は孫請けやその下位のレイヤーでプロジェクトに入っている。元請け企業のプロジェクトマネージャー(PM)だと人月単価200万円以上というケースもあるが、現場でゴリゴリとコードを書くSESのプログラマーは人月単価数十万円ほど。“人出し企業”という言われ方をされ、IT業界のなかでは賃金が低く“下位層”というイメージを持たれがち。未経験者がIT業界に入るためには、とりあえずSES企業に滑り込んで3~5年ほど修行し、経験者という肩書を持って大手SIerや大手テック企業に転職するのが成功パターンといわれる」(大手SIerのSE)

上流と下流の違い

 そんなSES企業で前述のような事態が起きているという。SES企業が未経験者を採用し、経験を持つエンジニアだと偽って顧客先に送り込むケースは珍しくないのか。データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。

「ここ数年で始まったことではなく、かれこれ20~30年前からある話なので、珍しくはありません。根本的な原因としては、日本のIT業界特有の多重下請け構造があげられ、上流の元請けSIerと下流の下請けSESといったかたちでヒエラルキーのようなものが存在します。上流のSIerは顧客と打ち合わせをして要件・仕様を固める一方、下流のほうはとにかく作業者となる人を集めることが最優先になりがちです。そのため未経験者が1週間くらいのかたちだけの研修を受けて現場に放り込まれ、要点定義書や仕様書を読めずに自分が何をすべきかもわからず、エンジニアとしてのコミュニケーションのやり方もわからないといったケースが生じます」