パスタを茹でると、たっぷり振った塩が鍋の底に不思議な「塩の輪」を作ることに気づいたことはありませんか。
一見、普段の台所で起こる何気ない現象に過ぎないようですが、その裏には、水中での粒子同士の相互作用や局所的な蒸発効果といった、魅力的な物理現象の複雑なかかわり合いがあります。
オランダのトウェンテ大学とフランス国立農業・食品環境研究所(INRAE)の研究チームは、キッチンのささいな疑問から着想を得て、この現象を実験室で再現し、メカニズムを解明しました。
研究内容の詳細は、2025年1月21日に『Physics of Fluids』で発表されています。
目次
- 日常から生まれた疑問
日常から生まれた疑問

この研究は、研究者たちがパスタを食べながら「なぜ塩はあの特徴的な輪を作るのか?」と疑問に思ったことから始まりました。
オランダのトウェンテ大学に所属するマチュー・スージー氏とその同僚たちは、スージー氏自宅のホワイトボードを使って実験計画をざっと描き、すぐに検証に取りかかりました。
疑問を持ったらすぐに実験に進めるのは、まさに研究者の強みと言えるでしょう。
研究チームはこの計画に従い、水槽に塩粒を落とす実験を行い、パスタ鍋に塩を加えたときと同じ条件を再現しました。
すると、塩粒が沈むときの現象が改めて詳細に明らかになりました。
単独の塩粒が沈むと、その後ろには小さな乱流ができ、まるで塩粒が水を引きずりながら落ちていくような状態になります。
しかし、多数の塩粒が同時に沈む場合には、それぞれの粒子が作り出す乱れが複雑に重なり合い、まるでダンスのように相互に横方向へ押し出していきます。
最終的には鍋の底で、粒子がぐるりと広がって円形のパターンを形成するのです。
スージー氏は
「一度にたくさんの粒子を落とすと、各粒子が水をかきわけながら落ちるため、小さな流れの乱れがたくさん生まれます。そして、その乱れは近くにいるほかの粒子も横に押しやってしまうのです。その結果、沈んでいく粒子の集団は徐々に広がっていき、底に到達したときにはきれいな円形の分布になるというわけです」