ところが、新たな研究では「初期の生命には、実際には硫黄が豊富な環境下で合成・利用できる条件があり、金属結合や硫黄代謝に重要なアミノ酸(システイン、メチオニン、ヒスチジンなど)は思ったより早い段階で使われていた」と示唆されました。
従来、この“アミノ酸がコードに加わった順番”を推定する方法としては、トリフォノフ(Trifonov)による40種類の異なる指標を統合した「コンセンサス・ランキング」が広く参照されてきました。
しかし著者たちは「いくつかの指標は、初期地球での“非生物学的な(アビオティック)”存在量を根拠にしているが、実際の“生物学的な(バイオティック)”利用量とは必ずしも一致しない」と指摘。
むしろ“後から進化してきたかに見えるアミノ酸”も、実は既存の細胞が持つ酵素や代謝を使って合成・利用していた可能性があるのではないか、と考えたのです。
共通先祖以前に生まれたタンパク質を探る

まず、小型アミノ酸(グリシンやアラニンなど)が LUCA の段階で相対的に豊富に使われていたことが分かり、これは「より軽い(分子量の小さい)アミノ酸ほど早くコードに組み込まれた」という結論を補強します。
一方、従来は後期に追加されたと考えられていたシステインやメチオニン、ヒスチジンなどが、実際には意外にも早い段階で利用されていたことも示唆されました。
また、グルタミン(Q)が 19 番目付近で追加されたと推定されるなど、これまでの「コンセンサス・ランキング」とは異なる再配置が見られる点も特徴です。
さらに、LUCA より古い段階のドメイン(pre-LUCA)では芳香族アミノ酸(トリプトファンやフェニルアラニンなど)の頻度が高いという興味深い結果も得られ、全体として「遺伝コードがどの順序で拡張されていったか」を再検討するうえで重要なグラフになっています。/Credit:Sawsan Wehbi et al . PNAS (2024)