スーパーHICASの採用でZのハンドリングは飛躍的に向上した
944ターボと928S4を目標にしたという、新型フェアレディZの仕上がりはどうだろうか――。ボクは「かなり高得点を上げた」と考えている。
新世代の4輪マルチリンク式サスペンションとスーパーHICAS(電子制御4輪操舵システム)という強力な武器を手に入れた新型フェアレディZは、スタビリティという点では944ターボを凌いでいる。不整路面の追従性とか、ハードブレーキング時の挙動の安定性、超高速域でのステアリングを持つ手に伝わる安心感といった点をもスタビリティの要素に加えると、答えは少し違ってくるが、一般的にいわれるスタビリティ、つまり高速での安定性、といった点では明らかに944ターボを凌ぐ。そして、928S4のレベルまで限りなく近づこうとしている。中でも、超高速域の緊急回避的レーンチェンジでの高いスタビリティは、928S4をも超えたといっていい。
このあたりは、スーパーHICASのもたらす効果が明らかに大きい。同時に、新時代のマルチリンク式サスペンションとビスカス式LSD採用のプラス側面も見逃せない。もちろん、そういう効果を有機的に結びつけ、大きな成果を挙げた開発スタッフの努力も、である。
μの低い路面では、アンダーステアは強めに出る。この味付けはコーナリングでの安定性、あるいはウエット路面での安全性を考えると十分に納得がいく。これほどのハイパワー/高速車ながら、高いスタビリティ/安全性を実現した上で、実用域では軽快で、素直な身のこなしを楽しめるのだ。新型フェアレディZのハンドリングに対して、ボクは高い点をつけることを惜しまない。
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フェレディZのターゲットのポルシェ(とくに944ターボ)は路面条件、走行条件が厳しくなるほどに実力の奥の深さを見せつける。フェアレディZが学ぶ点はまだ多い。しかし、過去に両車の間にあった厚い壁は、フェアレディZの歩みでかなり薄くなった。これまでは壁の向こうにあって見えなかった姿が、いまやハッキリと見え始めた……そんな印象をボクは強く抱いている。
好きになれないのは、ツインターボエンジン(280ps/39.6㎏m)だ。確かにパワーは出ているのはわかる。しかし、フィーリングがよくない。トップエンドは詰まりぎみで気持ちのいい伸び切り感がないし、音質的にも心を騒がせる類のものでははない。
ただし、NAエンジン(230ps/27.8㎏m)については合格点をつけていい。NAエンジンは2000〜3500rpmといった常用域でのピックアップ感がとてもいい。音質にしても、心躍るとまではいかないにしろ、不快感はまったくない。
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スポーツカーは「感動を呼ぶクルマ」である。だから、エンジンのピックアップ特性や音質は大切な役割を占める。最高速度やゼロヨン加速を少々押し上げることより、ボクはむしろ、フィーリング面での高質さをスポーツカーには望みたい。
高性能で、快適で、美しく、さらにバリュー・フォア・マネーが高い。新型フェアレディZは、自らが生み出したスポーツカーのコンセプトを、1990年代にふさわしく極めて高い次元に押し上げた。これまでもフェアレディZはポルシェに脅威を与えてきたが、それはスポーツカーのマスマーケットゾーンにおける商売上の脅威だった。ポルシェは、技術的な絶対優位を信じて疑わなかったはずである。しかし。新型フェアレディZに対しては、そうもいかないだろう。
※CD誌1989年9月26日号掲載
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提供元・CAR and DRIVER
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