【時代の証言_日本車黄金時代】1989年「日産フェアレディZ(Z32型)」はポルシェをターゲットに開発。原点回帰し、すべてを刷新したZ-CARの到達点
(画像=4代目フェアレディZ(Z32型)は1989年2月の北米シカゴ・ショーでワールドデビュー。同年9月に日本仕様を発売した。カタログでは「開発基本テーマは、1990年代をリードする新世代の本格スポーツカーを作ることであった」と宣言。2シーターと2by2のそれぞれにツインターボ(280ps)と自然吸気(230ps)を設定した、『CAR and DRIVER』より 引用)

Z32型はポルシェをターゲットに走りを徹底的に追求した

 フェアレディZは世界のスポーツカー史上に、大きくその名前をとどめるクルマだ。最大の理由は「スポーツカーを大衆のものにした」というところにある。ここでいう「大衆のもの」とは、単に安価で経済性が高い、という意味ではない。それだけならブリティッシュライトウェイトスポーツだって、そうだった。MGミジェット、ヒーレー・スプライト、トライアンフ・スピットファイア……みんな安価に、気軽に、スポーツカードライビングの楽しみを提供してくれた。

 だがブリティッシュライトウェイトスポーツは、時代の流れに沿って成長することができなかった。MGBやトライアンフTR4にしても同じである。新しい時代は、スポーツカーにさえ優れた快適性、メンテナンスフリー性、運転のしやすさ、といった要求を突きつけた。

【時代の証言_日本車黄金時代】1989年「日産フェアレディZ(Z32型)」はポルシェをターゲットに開発。原点回帰し、すべてを刷新したZ-CARの到達点
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 そうした要求は、スポーツカーの最大の市場であるアメリカで、とりわけ顕著に盛り上がってきた。豊かなアメリカでは、家庭でもオフィスでも、エアコンの利いた快適な環境がいち早く整っていた。クルマも1960年代にはすでに、誰もがリラックスして走らせられるよう、エアコン、パワーステアリング、ATが常識になった。スポーツカーに対しても、同様の要求が出て当然だ。しかし、スポーツカーの死命を制するアメリカ市場の流れを、敏感に感じ取り素早く対応したのは日本だけだった。その先頭に立ったのが、1969年に登場したフェアレディZなのだ。

 フェアレディZは量産車のパーツを多用し、コスト低減に最大限の努力を注いだ。しかも性能的には中堅スポーツカーとしての地位を十分に得られるレベルを確保していた。スタイルもとても魅力的だった。そのうえ、快適性に優れ、メンテナンス面でも一般乗用車レベルを達成していた。運転のしやすさという点でも、それまでのスポーツカーの概念をガラリと変える、イージーな特性を提供した。

 それでいてプライスタグは非常に軽かった。1972年当時のアメリカでのプライスリストをひっくり返してみると、240Zの4045ドルに対して、ポルシェ911Sは9495ドル、コルベットは5393ドルもしている。

【時代の証言_日本車黄金時代】1989年「日産フェアレディZ(Z32型)」はポルシェをターゲットに開発。原点回帰し、すべてを刷新したZ-CARの到達点
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 これで人気の出ないはずはない。240Zはまるで大衆車のように売れ、一気に「Z-CARブーム」を巻き起こした。なにしろ、1カ月に5000〜7000台ものスポーツカーがコンスタントに売れるという事態は、まさに驚異だった。フェアレディZはスポーツカーを、特別な人たちのクルマから、誰もが手にすることができるクルマへと変えてしまったのである。

 後にポルシェが送り出した924/944系のコンセプトも、そのルーツは実にフェアレディZにあった。ところが、アメリカ市場での大きな成功は、コンフォート(快適性)面を年々肥大化させ、スポーツ性を退化させる結果にもつながった。  年を重ねるごとにフェアレディZは「高性能2ドアサルーン」といった性格のクルマに変質していく。

 Z32型のフェアレディZには、そうした点への反省が明らかに見てとれる。あらためてスポーツカーならではの高密度な走り、ドライビングの楽しさを追求する明快な姿勢が、Zのあちこちから伝わってくる。それも、コンフォートとのトレードオフなしに、である。

Z32型が参考にしたポルシェの高い実力

 新型フェアレディZの開発は「ポルシェ944ターボの走りの性能と、928のコンフォートを併せ持ったクルマ」をイメージして取り組んだという。

 確かに2.5リッターターボ(250ps)を積む944ターボは、世界のFR車の頂点に立つ走りの性能を備えている。とりわけシャシー性能で群を抜く存在といっていい。ボディ剛性は高く、理想的な前後重量配分であり、ホイールストロークをたっぷりとっている。ブレーキも強力そのものだ。

 荒れた路面上をフルスロットルでコーナリングするとか、強いうねりを高速でパスするとか、フルブレーキングするいった、そんな激しいシチュエーションになると、944ターボは待ってましたとばかりに真価を発揮する。ステアリングから、ペダルから、シートから、音から……あらゆるところからドライバーに正確な情報を伝え、さらにその情報に基づくコントロールに素早く、素直に追従してくれる。944ターボのシャシー性能は、すべてのFR車のサンプルになる、といっていい。

【時代の証言_日本車黄金時代】1989年「日産フェアレディZ(Z32型)」はポルシェをターゲットに開発。原点回帰し、すべてを刷新したZ-CARの到達点
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 一方の928S4は、320psのV8ツインカム32Vを積む。この大型スポーツカーは、スタビリティと快適性の高さでスバ抜けている。アウトバーンを200km/hオーバーのスピードでクルージングするとか、ミュンヘン〜フランクフルト間を飛行機より速く移動するといったシチュエーションになると、928S4は真価を発揮しはじめる。

 200km/hのスピードは、ドライバーがリラックスできる範囲に十分入るし、前方が空いているときにアクセルをフルに踏み込めば、928S4のスピードメーターはあっけないほど簡単に250km/hのラインを超えていく。しかも、万全のスタビリティである。まるでへばりつくように4輪が路面をつかみ、凹凸をしなやかな足首とひざで吸収してしまう。

 だから、ドライバーはステアリングに軽く手を添えておくだけでいい。前方に障害物が現れたら、ブレーキを深く踏み込むだけ。強力そのもののブレーキは、素晴らしい減速Gをキープしながら、1.6トンのウェイトが高速で移動するエネルギーを一気に空気中に放出する。

【時代の証言_日本車黄金時代】1989年「日産フェアレディZ(Z32型)」はポルシェをターゲットに開発。原点回帰し、すべてを刷新したZ-CARの到達点
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 高速走行中に見せるこうした928S4の実力が、ドライバーをリラックスさせ、肉体的にも精神的にも、その負担を最小限に抑えてくれる。

 ポルシェ911やフェラーリは、ステアリングを握るドライバーに素晴らしくエキサイティングな、そして熱い時間をもたらしてくれる。しかし、それは肌をダイレクトに刺激する性質のものであるため、長時間耐えることは難しい。911やフェラーリは、その意味でスプリント型のスポーツカーなのである。

 928S4なら、ミュンヘンからジュネーブまで、あるいはパリまで一気に走り続けることができる。そのままシャワーを浴びるだけで、夜のパーティに出席する気になるほど、疲労は少なくて済む。

 928S4の、すべてに大きな余裕がもたらす快適さと贅沢さは、まさに大人のスポーツカーと呼ぶにふさわしい。そんな性格の928S4は、高質なビジネスマンズ・エクスプレスとしても通用する。多彩なキャラクターの魅力を発揮するのだ。