石破首相は、シリア難民受け入れの前例を踏襲したい、と意味不明な答弁も行った。しかしシリア難民受け入れは、戦禍を逃れてトルコやレバノンに到達していた人々が対象であった。難民キャンプから日本に来たのである。住民の強制移動が大きな政治問題になっている現在のガザとは、政治的事情が、全く違う。
そもそもシリア難民受け入れの際も、当時の安倍首相がG7会合等で、日本の難民受け入れ不足を他国に指摘されたところから始まった話だった。難民認定の特例を作ることを嫌う国内の勢力との折り合いをつけるため、国際公約としたシリア難民の受け入れを、「奨学金付き留学ビザの発給」という裏技で、乗り切った特異な事例だ。
確かにシリアのアサド政権が倒れた今、反アサド派であった「シリア難民=奨学金付き学生ビザの支給対象者」たちが、現在ダマスカスで権力を握る人々に通じる系統の人々であることが、意味を持ち始めている。だがこれはかなり偶発的な作用によるものである。そもそも現在に至っても、日本の政治的利益に合致する結果をもたらすのかどうかも、定かではない。
ガザの人々の受け入れにあたって、シリア難民の事例を繰り返す、という決意表明をするのは、的外れである。ガザの事情とシリアの事情が、全く異なるからだ。もし、「いや、的外れではない、政治的狙いがある」と言うのなら、それは、いずこかの国の体制転覆を視野に入れて政変後の人脈づくりをする行為だ、と内外に宣言することである。パレスチナ問題の文脈でそのような政治的制限をする覚悟が、石破首相にあるのか。
私はあらゆる場面で、ガザの人々の日本への入国を禁止するべきだとは思わない。日本に留学して学んだ人々が、パレスチナの未来を担っていくとしたら、どんなに素晴らしいだろうか。それが平和的に実現したら、もちろん日本の国益にも合致する。適切な人材に対して、必要性に合致した機会を提供することができるのであれば、それは日本にとっても望ましいことだ。