アメリカのトランプ大統領が、エジプトとヨルダンにガザの住民を受け入れさせる、と宣言している。石破首相の国会答弁も、ガザのパレスチナ人を丸ごと移住させてしまいたいというトランプ大統領の意向を受けたものなのではないか、という憶測も流れる。
だが、強制的な住民移動は、国際法違反である。そんなことが許されるのであれば、あるいはそれが恒久的なパレスチナ問題の解決になるのであれば、過去半世紀以上にわたるガザの人々の苦境はありえなかった。周辺のアラブ諸国は、頑として、ガザの人々の移住を受け入れないだろう。
アメリカは、エジプトとヨルダンに、従来から多額の援助を提供している。トランプ政権は、おそらく援助の停止のムチと、援助の増額のアメを振りかざして、エジプトとヨルダン、あるいは他のアラブ諸国に圧力をかけていくだろう。
しかし200万人のガザの人々を恒久的に受け入れる負担は、トランプ政権期のアメリカからの援助の増額くらいで、解消されるようなものではない。
そもそもパレスチナ人を犠牲にして、イスラエルの占領・併合政策に協力した、ということになれば、アラブ諸国の現在の政権が持ちこたえられるのかわからない強烈な政治的突き上げが起こる。仮に援助の増減が大きな問題になるとしても、自分の政権の維持を犠牲にしてまで、イスラエルとアメリカのために、ガザからの強制住民移住に協力したい、などと考える周辺諸国は、皆無だ。
ガザにおける医療援助や教育機会提供のニーズは、大きな問題である。ただ本来は、ガザの人々が公平に享受する機会を得られる環境の促進を図るべきである。もし日本に連れてくるのであれば、なぜ日本に連れてくるのか、に関する理由付けが必要だ。
ガザの苦境に目をつぶり、ただ「日本人は善人です、善行をします」とトランプ大統領にアピールしたい、と願うことが、全世界で等しく好意的に解釈されるかどうかは、わからない。
イスラエルの常軌を逸した破壊行動を非難せず黙認しておいて、ガザの住民の移住を促進したいと表明することは、極めて高度に政治的な問題になる。単なる「楽しい日本」の「善人」の慈善活動の範囲で収まる問題ではない。