では実際の実験映像を見てみましょう。
おそらく、ゴリラのことがすでに念頭にある皆さんは誰も引っかからなかったと思います。
「いや、思いっきりゴリラいるじゃん。逆に気づかないことある?」と思った人が大半でしょう。
ところが、です。
ゴリラなどまったく頭になく、ただただ「白服チームが何回パスしているか」に集中して映像を見始めた人は意外とゴリラが見えなかったことが示されています。
実際にこの実験では、被験者の2人に1人(約50%)はゴリラが横切っていったことに気づかなかったのです。
(試しにゴリラのことは何もいわずに、この動画を使って知人や家族に同じ実験をしてみるといいかもしれません)
これは一体どういう心理メカニズムなのでしょうか?
脳は複数のことに同時に集中できない
研究主任のシモンズとチャブリスによると「ゴリラが見えなくなったのは非注意性盲目(inattentional blindness)が働いたからだ」と説明します。
非注意性盲目とは、視野に入っているにも関わらず、注意が向けられていないために見落としてしまう現象のことです。
そもそも私たちは周りの世界を「目」で見ているというよりも「脳」で見ています。
脳は目から雪崩れのように入ってくる視覚情報をすべて処理することはできません。
そこで今自分に必要なもの、見るべき対象を「注意」によって選び出し、その視覚情報だけを脳に送って、それ以外は背景として意識から排除するようになっています。
「見えないゴリラ」実験で発生したのはまさにこれでした。
被験者は、白服チームが何回パス回しをするか数えるタスクを与えられていました。
それを成功させる最も効果的な方法は「白服チーム」だけに注意を絞り、それ以外の「黒服チーム」は意識から完全に排除してしまうことです。
そしてゴリラの着ぐるみは黒色ですから、黒服チームと一緒に意識の外に追いやられてしまい、これほど目立つゴリラが見えなくなったのです。
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