そこでNTUの研究チームはADHDの成人と健康な成人を対象に、30分間の有酸素運動で認知機能が改善するかどうかを検証しました。
ADHDの人にだけ運動が効く理由とは?
チームは短い有酸素運動がADHDの人々において病的に弱まっている脳の「皮質内抑制(intracortical inhibition)」の機能を高めるのではないか。
反対に健康な人々においては皮質内抑制を低下させるのではないかと仮説を立てました。
これはどういうことか?
そもそもADHDの人と健康な人の脳機能は初めから大きく異なっています。
脳の神経回路では「興奮性」と「抑制性」のバランスが大事です。このバランスが崩れると、情報処理の精度が低下し、注意力や認知機能に影響を及ぼします。
そしてADHDの人は脳の抑制機能が常に低下している状態にあり、脳の興奮状態を適切にコントロールできていないことが多いのです。
例えるなら、ADHDの人の脳は「ブレーキが効きにくい車」であり、常にノイズや雑音が脳内に発生しており、それによって不注意や注意散漫が発生すると考えられています。
対して健康な人の脳は興奮性と抑制性がすでに最適なバランスを保っていることがほとんどです。
例えるなら、健康な人の脳は「ブレーキとアクセルが適切に機能している車」であり、脳を混乱させることが起きない限り、不注意や注意散漫は起きにくくなっています。
そのため、健康な人が運動をすると、むしろ脳の興奮性が高まり、抑制性は下がると予想されます。
これらを踏まえてチームは「有酸素運動がADHDの人の皮質内抑制を高め、健康な人の皮質内抑制を下げる」と仮説し、実験に移りました。
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実験にはADHDの成人26名と健康な成人26名の計52名が参加しました。各グループには男性16名・女性10名が含まれ、平均年齢は23~24歳となっています。
ADHDの参加者は国立台湾大学病院の精神科外来を通じて募集され、健康な参加者はオンライン募集によって集められました。