FTPL(物価水準の財政理論)で考えると、長期的な政府債務の均衡条件は、今までの借金が将来の財政黒字で返済できること、つまり
名目政府債務=プライマリー黒字の割引現在価値
だが、右辺が2000兆円以上もマイナスになっている日本では均衡条件は満たされないので、日本国債は合理的な投資の対象ではない。それが今まで維持できたのは、金融村が黒田日銀を信頼し、右辺の資金制約を意識しなかったからだ。
しかし植田日銀は世界標準に近づいているので、政策金利も欧米の2~3%に近づくだろう。これは日銀当座預金の付利と同じなので、日銀は赤字になる。日銀の自己資本は約6兆円、債券取引損失引当金が約6兆円なので、付利が1.5%になると2年で債務超過になる。それが長期にわたって続くと、円の信認が落ちて円安が進行するだろう。
財政も悪化する。日本の政府債務がGDP比で世界最大でもゼロ金利だったのは、自然利子率(≒潜在成長率)が低かったことが最大の原因だが、長期金利はリスクプレミアムが乗るので、政府債務が大きくなると上がるのが普通だ。
それを日銀と金融村が買うことでバブルを維持してきたが、金利が上がって海外ファンドが参入し、日銀がQT(量的引き締め)で国債保有額を減らすと維持できなくなる。理論的には実質金利は国際的に均等化するので、長期金利も欧米並みの4~5%になろう。
これから政府・日銀の脱債務化が始まる。これで国債バブルがゆっくり消えるなら日本経済は正常化するが、これは政治的には痛みをともなうので、「物価高給付金」や「手取りを増やす所得減税」などの倒錯した財政政策が出てきて経済が混乱する。
金利が上がっても円が売られるのは、自民党だけでなく国民民主党もバラマキに参加し、財政の維持可能性を疑う外資が多いからだろう。日本の政府債務はトラス政権のイギリスよりはるかに悪いので、格付けが下げられるおそれもある。