トヨタ自動車の工場で、従業員が疾病を負って医療機関で受診する際に、労災ではなく、とりあえず健康保険で受診するようマニュアルに定められていると、1月13日付「しんぶん赤旗」ウェブ版記事が報じている。同記事によれば、従業員が自己負担3割の健康保険から自己負担がない労災に切り替えようとすると、健康保険のままにするよう上司から指導を受けることもあるという。Business Journalはトヨタ公式サイト上の報道機関向け問い合わせフォームから事実確認のため質問を送付したが、期日までに回答は得られなかった。企業によるこうした行為は、法律的に問題があるのか。また、実態としては多くの企業でも同様のことが行われているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 24年暦年の世界の自動車販売台数で5年連続の首位となり、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ。大企業ゆえにコンプライアンスや労働環境の整備は進んでいると思われるが、過去にはたびたび労務に関する問題が起きてきた。たとえば2019年、豊田労働基準監督署(愛知県豊田市)は、同社の男性社員(当時28歳)が17年に自殺したのは、上司のパワハラで適応障害を発症したのが原因だとして労災を認定。当時の豊田章男社長が遺族に直接謝罪し、再発防止策を説明した。

労働安全衛生法に抵触の可能性も

 一般的に勤務時間中の業務に伴い疾病を負った場合の医療機関での受診には、健康保険ではなく労災が使われる。上記のような企業の対応は、問題があるのか。坂の上社労士事務所の代表で特定社会保険労務士の前田力也氏はいう。

「問題があるといえます。まず、健康保険は健康保険法、労災は労働者災害補償保険法というかたちで、根拠となる法律が異なります。そして、労災隠しにあたるケースがあります。実際は労災であるのに事故を隠し、当局に届け出をしないという行為は、労働安全衛生法第120 条、第122条に基づき50万円以下の罰金に処せられます。加えて健康保険の不正受給という問題も出てきます。

 受診した医療機関によっては、健康保険から労災への切り替えの手続きができず、いったん患者が10割負担して、のちに労働基準監督署に差額の7割分を請求するというプロセスを経るため、手続きが非常に重いものになってしまうという問題もあります」