さらに量子もつれ顕微鏡を使えば、システムの一部を“拡大”する形で、その「もつれの度合い」や「もつれが切れる境目」をピンポイントで把握可能です。

これにより、もつれを最大化したり、壊れやすい部分を補正するための設計策が立てられます。

目がふさがっていては手探りでしか電子回路を作れませんが、目が開かれていれば細部を確認しながら組み立てられるように、量子もつれを可視化できるメリットは非常に大きいのです。

量子もつれ顕微鏡の開発は、人類に量子の世界で目を開かせる、第一歩と言えるかもしれません。

今回示された成果は、量子コンピュータや量子通信に限らず、材料科学や生物学、化学などの広い分野にも深く関わると期待されています。

たとえば、光合成の不思議なほど高い効率性にも量子もつれが影響しているという説があり、その実態が解明されれば、さらに高度なエネルギー変換技術が生まれるかもしれません。

新しい特性をもつ“量子材料”を設計するときにも、材料内部のもつれ分布を理解することは欠かせません。

このような分野横断的な応用は、量子もつれが可視化されなければ困難でした。

量子もつれは、アインシュタインの時代から物理学者を魅了してきたテーマで、現代の量子技術を支える核心とも言えます。

それが今、複雑なネットワークの向こう側にある量子の世界を、こんなにもはっきりと「のぞける」時代が来たのです。

今後、私たちが目にする量子技術の未来は、量子もつれ顕微鏡を通して鮮やかに照らし出されることでしょう。

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参考文献

HKU Physicists Pioneer Entanglement Microscopy Algorithm to Explore How Matter Entangles in Quantum Many-Body Systems
https://hkucms.hku.hk/press/news_detail_28079.html