量子モンテカルロ法は前者の顕微鏡の役割を担っており、巨大な量子系をまるで写真のようにランダムに“スナップショット”を撮るようにサンプリングし、その結果を多数集めることで確率的な性質を推定します。
ゾウを丸ごと見るのは大変でも、小さく区切って何度も観察すれば、全体の特徴をつかめるのと同じ発想です。
そして続く部分密度行列(RDM)の復元では集めたスナップショットを数学的に整理し、「対象となる局所領域には、どんな量子状態が含まれているのか」を再構成します。
何千、何万回と続けられるモンテカルロサンプリングによって、細かな相関情報が蓄積され、そこから“ゾウ全体”の姿(ここでは量子系全体)を推測するのです。
量子もつれ顕微鏡は、これら2つのステップを組み合わせることで、特定の量子系の量子もつれがどんな性質にあるか、たとえば「短距離もつれ型」か「長距離もつれ型」かといった情報を、把握することが可能になります。
通常の顕微鏡のように目で見て観察するわけではありませんが、計算アルゴリズムによって“見えない情報”を整理し、実質的に可視化しているのです。
物質によって「もつれかたの違い」があることが可視化された
今回の研究では、「量子もつれ顕微鏡」を使った数値シミュレーションにより、2次元の代表的な2つの理論モデルを詳しく調べました。
1つ目は、短距離で急激にもつれが消える「イジング模型」です。
イジング模型は、簡単に言うと「スピン同士が揃いたがる性質」と「外部磁場によってスピンが回される性質」のせめぎ合いで成り立っています。