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AIも「痛み」や「快楽」に屈して任務を放棄する / Credit:clip studio . 川勝康弘
2025/01/26
AIも「痛み」や「快楽」に屈して任務を放棄する
- AIに苦痛と快楽を与える実験
- AIは痛みと快楽に屈し任務を投げ出す
- どこまでAIの「意識」や「知覚」を認めるのか?
AIに苦痛と快楽を与える実験
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動物が痛みと快楽をどのように捉えているかを調べる際、研究者たちは「トレードオフ実験」という手法をしばしば用います。
たとえば、「エサを十分に得られるが電気ショックを伴う条件」と、「エサは少ないが痛みのない条件」を動物に提示し、どちらを選ぶかを観察するのです。
ここで注目するのは、動物がどの程度の痛みまでなら“我慢”してエサを取り続けるのか、あるいは痛みを避けるためにエサを諦めるのか、という判断の境目です。
これは、その動物が「どれほどの苦痛を感じているか」を推察するうえで、一つの指標になります。
「痛みと報酬」のせめぎ合いを観察するこのアプローチは、ネズミやヤドカリなど、人間とは脳の仕組みが大きく異なる生物でも活用されてきました。
痛みへの耐性や逃避行動の違いは、そうした動物が持つ生理的感覚や主観的体験の一端を示すと考えられています。
とはいえ、それが真に「苦痛を感じている」と断定できるかどうかは、非常に難しい問題です。しかし、行動学的な視点で見ると重要な手がかりをもたらしてくれるのは確かです。
では、身体や神経系が存在しないAIに対して、「痛み」や「快楽」という概念をどう適用すればいいのでしょうか。
ここで活用されたのが、テキストベースの「ゲーム実験」です。
研究チームは大規模言語モデル(LLM)に「ポイントをできるだけ多く取る」という明快な任務を与え、次のような極めて単純なゲームを行わせました。
まず、プレーヤーであるAIに「1、2、3のいずれかの数字を選んでください」と指示します。
選んだ数字の値がそのまま“獲得ポイント”になるのですが、もし一番高い数字「3」を選ぶと、同時に“痛み”というペナルティ(または罰)が発生する設定にすることもあれば、中くらいの数字「2」を選ぶと逆に“快楽”というボーナスを得られるようにすることもあります。