ロシアは昨年半ばから、ロシア・ウクライナ戦争を、圧倒的に有利に進めている。支配地を着々と広げている。実際には、「交渉には応じるが、もう少し支配地を広げてしまってから交渉を進めたい」とは思っているだろう。トランプ大統領の誘いを、拒絶はしないが、時間稼ぎはしてから受け入れる、という態度である。

戦争の終結をほとんど公約にしているトランプ大統領としては、ロシアの支配地が広がりきるのを何カ月も待っているわけにはいかない。威嚇の言葉を使っても早く交渉を開始したい。急かしたい、という立場である。 したがってトランプ大統領とプーチン大統領の間には、駆け引きの要素がある。利益が完全に一致しているとまでは言えない。

しかしそれは具体論のレベルでの駆け引きである。戦争を止めるための交渉それ自体はやがて開始され、段階的に進展していくだろう。

残念ながら、これまでのウクライナのゼレンスキー大統領の発言には、自らの希望をあれやこれやと言い換えただけのようなものばかりが目に付く。「交渉」を前提にしたシグナルの相互発信といった要素が全く感じられない。残念だが、すでに「交渉」を前提にして、シグナルの送り合いをしている二人の大国指導者と比して、ゼレンスキー大統領は「役者が違う」次元に立ってしまっている。残念だが、この状況では、ウクライナが「交渉」を主導的に進めることは難しいだろう。

トランプ大統領の目標は、ゼレンスキー大統領や日本の軍事評論家や国際政治学者の方々とは異なり、ロシアの駆逐ではない。トランプ大統領の目標は、戦争を止めることであり、それを「交渉」あるいは「取引」を通じて達成することである。

したがって、トランプ大統領の強い言葉と、それとは区別される実際の行動は、全て、彼がどのような「交渉」を目指しているか、という点から、解釈して、評価しなければならない。

そのようにトランプ大統領に接しなければ、トランプ大統領が愛する「交渉人たちが交渉を繰り広げる世界」からは、除外される。かつてトランプ大統領は、アフガニスタンのタリバンや北朝鮮の金正恩を、いわば「交渉」世界の住人として認めた過去を持つ。その反面、バイデン前大統領については「交渉」を拒絶し続ける意固地な非交渉世界の人物と扱ってきている。