加えて、行動シミュレーションを行った結果、コオロギは状況に応じてこれら2種類の逃避行動を使い分けることで、狭いアリの巣の中でも効率よく餌を探し、長期的に生活できる可能性が示唆されました。
研究チームはこの“二刀流”ともいえる戦略が、アリヅカコオロギの潜入作戦を支える重要な鍵だと結論づけています。
アリと共に暮らす好蟻性生物は世界中で何度も独立に出現しており、「アリと暮らす」ための形質がどのように進化してきたかは、進化生物学の重要なテーマの一つです。
今回のアリヅカコオロギのように、化学戦略がさほど強くない種が持つ行動適応は、ある意味で「汎用性が高い」利点をもたらすと考えられます。
潜入先のアリと同じような化学物質をまとうことは安全性を向上させるのは間違いありませんが、ターゲットとした種『以外』の巣に忍び込むことを難しくしてしまい、進化の袋小路に迷い込む可能性があるからです。
一方で、物理的な逃避スキルを身につけることができれば、数多くの種類のアリの巣で生き延びることが可能になります。
今回の研究は、目先の安全性や効率を上げるために特化するより、汎用性の高いスキルを進化させたほうが長期的に役立つ場合があることを示しています。
今後、アリヅカコオロギなどの好蟻性生物の神経回路や遺伝的基盤を解明することで、アリと他の生物が繰り広げる「だまし」と「見破り」の共進化のメカニズムを一層深く理解できるでしょう。
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参考文献
四面楚歌をどう切り抜ける? ~アリの巣内部で暮らすコオロギの逃避戦略~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/01/post-775.html
元論文
Switching escape strategies in the parasitic ant cricket Myrmecophilus tetramorii
https://doi.org/10.1038/s42003-024-07368-y